劣化したベトベト内装を現代仕様に内装交換 ルイヴィトン・スポンティーニ篇

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付け根補修する頃には内装は劣化している

こちらのスポンティーニは以前ストラップの付け根パーツの交換を行なっています。この部分のレザーパーツも痛みやすい部分ではありますが、だいたいこのパーツの補修でご依頼される段階で、内装が劣化していてベトついている場合が多いです。

以前交換した付け根パーツ

このパーツを本体に取り付け直す場合には、縫製箇所周辺の内装を一旦ずらしてからパーツを縫製し、また内装を元の位置に戻し縫製し直せば内側に縫い目が出ません。

ただ内装が劣化している場合は、縫製を解く段階で表面の被膜がベロベロと剥がれてきてしまう状態だったり、もしくは縫製の際のミシンの押さえでずりずりと被膜が剥がれてきてしまいます。

内装劣化
劣化してボロボロ

ではそのまま内装を外さずに内側に縫い目が出る状態で縫製すれば、となるとやはりミシンの押さえや縫い目の締まりでぐちゃっとなってしまいがちです。

内装劣化
縫い目に引っ張られてぐちゃっと

なので付け根補修のご依頼の際には、縫製箇所がぐちゃっとなってしまうことなどお伝えしていますが、結局はその時点で内装が劣化しているので、そのまま使い続けるには内装も合わせて交換した方がいいのかもしれません。

ベトベト内装取り外し

内装交換

オリジナルの内装の仕様は片面にペンホルダー?と、もう片面はギャザー付きのポケット。

内装劣化
ベトベトですね

合皮素材というのは土台となるガーゼのような繊維の表面に、革っぽい薄い被膜が貼り付いているようなものです。劣化してくるとその被膜が浮き始め、ベトついて剥がれてきます。

合皮は使用の有無に関わらず、2.3年で劣化が進行し始めると言われています。鞄のようなファスナーで外部と閉ざされる構造の場合は、内部に湿気が溜まりやすいので進行も早いかもしれません。

鞄メーカーは合皮が必ず劣化するのを知っていて使っています・・・悪ですね。

そもそもモノグラムの外装のPVC(塩化ビニール)は、20年経過しても使用に耐えられる耐久性が高い素材を使っているのに、内装に2.3年で必ず劣化する合皮を使用するというのは、買い替えタイマーがセットされているようなものです。

内装劣化

ギャザーポケットは大丈夫そうに見えますが、触るとしっとりとペとついているので指先で表面をギュッとすれば被膜が剥がれてくる状態です。

ちなみにサクップラも同様にベトついた内装交換でご依頼いただきますが、買い替えタイマーのクレームがルイヴィトンに多いのか、現行モデルは内装が生地仕様に変更になっていますね。

劣化が始まっている目安とは?

型紙製作と寸法確認

取り外した合皮の内装から型紙を起こします。合皮はフニャついて伸びているので計測した寸法はそのまま使用できませんが、ある程度の目安にはなります。

目安といっても正面と背面のパーツは同じサイズのはずですが、5.0mmぐらい違ったり、マチの幅も均等のはずが上下左右で違うので、目安にしていいものかどうかではありますが。

いきなり本番を作る勇気はないので仮の型紙ができたら試作します。今回はポケットの仕様も変更になるのでその具合も合わせて確認します。

内装試作
内装試作

今回のご依頼主さんのご希望は、ペンホルダーではなくスマホが入る深めのポケットと、鍵やリップが収納できる2口ポケット。

ゴム入りのギャザーのポケットは生地では作りにくいですし、何より使い難いかと。なので通常のポケットでということでしたが、サイズが小さいので鍵やリップが底にあると指先で取り出し難いかなと思ったので広がるマチ仕様に。

試作の画像がありませんが、もう片面はスマホ用の深いポケットに。今の時代、スマホ収納は必須です。特に古い鞄の場合は、内装の仕様がスマホやガラケーもない時代の設定なので、ポケットサイズが対応していない場合がほとんどです。

試作
内装試作

生地には裏面に芯材も貼り合わせます。この生地は丈夫なので強度的に芯材を併用する必要はありませんが、表面の張り感を出したいので併用しています。芯材もいくつか種類があるのでどれが適しているか貼り合わせて確認。

内装確認

試作ができたら実際に本体にセットして寸法を確認。距離やあまり具合を確認し、ここは2.0mm詰めてみるとか、ポケットの深さはスマホが取り出しやすいかなどチェック。

ルイヴィトンクラスになると縫製も正確に行なっているので、狂いは少ないのですがそれでも上下左右で数ミリずれがあったりします。本体のPVC素材も経年により癖がついたり、反ったり膨らんだりしているので、仮に内装の寸法がピッタリでも内側に多少たるみが出たり皺がよることはあります。

本番の内装はワインレッドで。

オリジナルの内装に近いベージュカラーを選択される方もいれば、レッドやワイン系の華やかな色にイメチェンされる方もいらっしゃいます。先ほどの寸法確認用の試作、グリーンに黒革合わせはルイヴィトンぽくはないですが、ブリティッシュぽくてかっこいいなと。

スポンティーニの内装交換
スポンティーニ内装交換
2口マチありポケット

こちらがスマホ用のポケット。6インチのスマホが隠れる感じです。

スマホ用ポケット

全部隠れると取り出し難いかなとか、取り出す際に外装のファスナーが邪魔にならないか、なども検討しています。

内装交換

全面に芯材を貼ることに。芯材を張らないと本体PVCの撓みに影響されて内装に皺が寄り易かったので、芯材を貼ることで張りが出て皺の寄りが抑制されます。

内装交換
内装交換

八方ミシン縫製風景・動画

今回から動画を併用してみることにしました。一般的には動画で完結する編集にするのでしょうけど、撮影しながら作業をするとカメラの角度がどうとか、見切れてしまっているとか、録画ボタンを押し忘れているとか、いつの間にか録画が停止しているとか・・・

そんなこんなで撮影していると恐ろしく作業が進まないので、画像同様に文章の補足としての動画を掲載してみました。なので動画だけ見ても何も完結していないので、修繕日誌と合わせてご覧いただければと思います。

内装交換完成

チラッと見えるワインレッドが色っぽいですね。

内装交換

スマホの収納はこんな具合。

内装交換
内装交換

2口マチありポケット。マチを付けたことで取り出す際には入り口が膨らむので、底にあるリップや鍵も指先を入れて取り出し易いかと思います。

内装交換

ブランドロゴも元の位置に移植しています。

内装交換

これで内装はまず劣化することはないので(50年ぐらい経過したら分かりませんが)、持ち手などのレザーパーツを定期的に保湿してあげることで末長く使い続けることができると思います。

ルイヴィトンの修理依頼される鞄は、定期的に革に保湿が行われている品はほぼないので(購入したまま何もせず20年とかザラです・・・)カサカサに乾燥し色褪せたり、雨に濡れるを繰り返している品は、ひび割れたりと可哀想な状態で運び込まれます。

内装交換

革は使い始めから定期的に保湿することで寿命を伸ばすことができます。ほとんどの方がひび割れたり痛んでから何とかしようとしますが、一旦痛んでしまうと元の状態まで挽回するのは難しいので、痛んでも痛んでいなくてもお肌と同じで定期的に保湿してあげてください。

おすすめの保湿クリーム

サフィール社のユニバーサルレザーローションは、当店でお預かりした修理品の保湿にも使用しています。鞄はもちろん靴の場合はレザーローションで保湿してから乳化性の靴クリームという順番で使っています。(店頭でもamazon価格で販売しています)

左から業務用・通常ボトル・お試しミニボトル

レザーローションでのお手入れの頻度については、月一とか、雨で濡れてしまった時は乾いてから必ず保湿するなどそういう頻度で大丈夫です。

革の保湿というとミンクオイルを使用される方がいらっしゃいますが、ミンクオイルはおすすめしていません。油分が強すぎるので使い方を間違えると逆に革を痛めて(繊維がふやける)しまったり、カビの栄養分になってしまいますので。

合皮素材が使われている製品を購入する際には、使い捨て前提か、後でそれなりに修理費用がかかることを前提に(修理できない構造もありますが)購入を検討された方がよろしいかと思います。

有名ブランドだからといって素材や作りがいいとは限りません。密かに買い替えタイマーがセットされている、なんて事もありますので・・・。

ちなみにタイマーは、あなたが製品を購入されてからカウントが始まっているのではなく、合皮素材が製造がされてから、カチカチとカウントされ始めています。

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