搭乗ゲートで引っかかるALDEN
まだまだ履ける状態のALDEN。
オールソールするにはまだ早いのですが、お客さんのご希望にお応えするにはオールソールするしか方法がありません。そのご希望というのは飛行機に搭乗する際に金属探知機のゲートに引っかからないようにして欲しいと。
搭乗の際、金属探知機のゲートに度々引っかかりテロリストに間違えられるので、という訳ではなくそのお客さんは若手のパイロットさんです。
ゲートで引っかかると靴を脱いでゲートを通過してまた履いてとやっていると、先に通過した先輩パイロットを待たせてしまうので探知機が鳴らないようにできないかと。鳴っているのはX線?で靴内部のシャンクということは判明しているとのことです。
私の靴は鳴らないけど?と思われた方いらっしゃるかと思います。実際に私も自分で製作した靴にはもちろん金属のシャンクを取り付け、その靴でゲートを通過した事がありますが鳴ったことはありません。
そのパイロットのお客さん曰く、ゲートが反応する感度や設定も空港ごとにそれぞれ異なっているのでこのALDENでも鳴らないところもあると。それにゲートも半身で通過すると鳴らなかったりもするんですと。
恐らくですが、鳴る鳴らないは一度にゲートを通過する瞬間の金属の面積の多寡によってではないかと。半身だと片足ずつになるのでシャンクの金属面積も1/2だから反応しないとかではないかと。1/2だと鳴らない?なら他の靴は両足通過したら鳴るんじゃないのか?
実はALDENのシャンクは一般的なシャンクの2倍近く大きさがあるんです。なので一般的な靴だと両足でもALDENの1/2ぐらいのシャンクの面積量なので(紳士靴の場合で)一般的な紳士靴では両足通過でも鳴らないのかもしれません。
シャンクは金属製のものだけではなく、樹脂、木片、竹などが使われているのでそれらの靴はもちろん鳴りません。
鳴らないシャンクはどれ
左から
・マッキー
・ALDEN(焼き入れ)
・一般的な紳士靴(焼き入れ)
・一般的な紳士靴(焼き入れ)
・婦人靴(焼き入れ)
・紳士靴(生)
・婦人靴(生)
どうでしょうかALDENのシャンク大きいですよね。なので一般的な紳士靴では例えゲートを同時に両足が通過してもこの金属の面積では鳴らないのではないか、またはそもそもこの一般的な紳士靴のシャンクの面積を基準にアラートの鳴る鳴らないの設定をしていたりするのでは?とも。
そうでないと、どの靴にも大抵はシャンクが入っているので世界中のゲートの前では靴の脱ぎ履きで渋滞になってしまいますからその方が保安上問題が生じてしまいそうですし
ちなみに「焼き入れ」と「生」の違いは、生というのは鉄をシャンクに成形したのちに高温で熱処理をされていないもの、焼き入れというのは高温で熱処理がされ硬くなっているものになります。
生のシャンクは手で力を入れれば曲げられますが、焼き入れのシャンクはハンマーを使って加工しないとなかなか曲がりません。曲げるというのは靴のアーチ、踏まず部分の反り具合は靴型によってそれぞれ異なるのでその反りに合わせて微妙に曲がりを調節します。
このシャンクでヒールから踏まずの浮き上がっている部分を支えるようなイメージです。よく「靴の背骨」と言われたりもします。
背骨とのことですが踏まず部分が埋まっているような靴、スニーカーやウェッジソール、フラットソールなどの靴種にはシャンクが入っていないものもありますし、または埋まっていない靴でもヒールの低い靴やカジュアルな靴などでは入っていない場合もあります。
それではALDEN、分解してみます。
まずはトップのダヴリフトから外していきます。ときどき革付きリフト(ダヴやラスターリフトなど)交換で斜めに磨耗している黒いラバーの部分だけ交換して欲しいと言われるのですが、リフト交換は一段ずつの交換になります。というのはこの部分のラバーと革は互い違いに組まれているのでラバーの部分だけを剥がすことはできないからです。
こんな感じでパズルのようになっているのでラバーの部分だけを引き抜いて交換というのはできません(革が載っていた部分も凸のラバー部分と一体です)。
といっても組み方は各社それぞれなので、例えばラスターリフトでは革とラバーの部分が完全に独立しているものもあるので出来ない事もないのですが、革の部分も磨耗し目減りしているのでラバー部分を平らに交換しても段差が生じたりしますし、逆に手間なので交換費用も大して変わりませんので革付きリフトは一段での交換となります。
残りのラバーの部分を剥がすと土台の積み上げが現れます。この部分は革だったりナンポウと言われる合成素材が使われていますが、このALDENは合成素材が使われていました。近年は高級紳士靴でもしばしばこのような合成素材が使われていることが多いです。
この合成素材は革素材と違って質が均一で低コストなのはメリットではあるのですが、雨に濡れたりを繰り返すと劣化しやすいのがデメリットでしょうか。
革の場合、場所場所で繊維が荒いものもありますしやけに硬いものもあります。荒いものだと接着面がふかふかしてのちに積み上げられた土台の途中で浮いてきたり、リフト交換でリフトを剥がすとぼさっと繊維が剥離してきたりと(合成素材でも劣化していると同様)タチが悪いので合成と革、どっちもどっちという感じでしょうか。
トップリフトを剥がした土台の積み上げ部分には表面に釘が7本ほど見えます。リフトを剥がす際にもダヴリフトに化粧釘(真鍮)が17本打ち込まれていましたが、土台の積み上げも(革底とトップリフトの間の部分)革底と中底に少し貫通するように釘が打ち込まれています。
この部分は通常のリフト交換では土台になるので交換はしません。なので積み上げは釘で土台(皮底と中底)に固定されています。
この釘が打ち込まれていない靴は、リフト交換の際にリフトを剥がすと積み上げ層部分も浮いてきたり、または履いているうちに徐々に浮いてきたりと問題が生じることがあるので打っていて欲しい釘です。(打たれていない靴もそこそこあります)ただ逆に分解する際にはこの釘が錆びているとなかなか抜けないので厄介ではあるのですが。
この土台の積み上げを剥がしていくとようやく革底が見えてきます。今回の積み上げは合成素材なので剥がそうとすると割れて崩れてしまって綺麗に剥がせませんでした。ボソボソと崩れたので固定釘だけが取り残されています。
積み上げを剥がすと革底が見えますがこの革底もまた中底に向けて貫通するように釘が9本ぐらい打ち込まれています。
この靴の場合のようにシングルウェルト(ヒールの手前までのウェルト)の場合は、かかとの部分の革底はどこにも縫い付けられていないので固定されていません。なので釘で中底へ固定されています。これがダブルウェルト(ウェルトがかかと部分にも縫い付けられている)の場合は革底に釘を打つ必要はありません。
かかとの部分が取り除けたので次に革底を剥がしていきます。底縫いを切らないと剥がれないので底縫いの縫い目をグラインダーで削り落とします。
ウェルトと革底の間にナイフを差し込み、出し縫いの糸(革底とウェルトを縦方向に縫っている糸)をカットしている職人さんの作業風景をテレビで紹介されていました。
その姿は職人ぽくってかっこいいのですが、しばしば出し縫いがすくい縫いの糸を貫通してしまっている靴があります(これはNGなのですがよくあります)。その場合、ナイフを差し込んで出し縫いの糸をカットしているつもりが、すくい縫いの糸も一緒にカットしてしまい、後々面倒な事になるだけなので私はグラインダーで革底をがっつりと削ってしまっています、こんな感じで。
ALDENの場合は革底はあまりしっかりと接着されていないので、出し縫いの糸さえカットしてしまえば革底は簡単に剥がれます。ということは通常の歩行でも底縫いの糸が擦り切れてしまうと簡単に革底が剥がれてしまうということになるのですが・・・。
と言っても底縫いの糸が擦り切れていても完全に切れなければ上下の糸が縫い穴の中で引っかかってそう簡単には剥がれませんが、つまづいたり走ったりと、何かの拍子に強く負荷がかかるとギリギリ引っかかっていた糸が、バリバリバリと抜けて剥がれてしまうこともあります。
矢印部分がウェルトと革底の境目です。ALDENの場合は接着がしっかりとされていないので新品の状態でもこの境目がずれていたり隙間が空いている靴もちらほらあります。
履いていくと革底とウェルトの伸縮度合いや革の硬さが違うのでずれも大きくなり、底縫いの糸が完全に切れるとこの部分でぱかっと開いてしまいます。(しっかり接着していても経年で隙間やずれはどの靴でも生じます)
ウェルテッド製法の場合、開いてしまうとその状態で革底を接着で固定というのは不可になります(後ほど説明があります)。それとある程度履いた状態からハーフソールを取り付ける場合ですが、その際に底縫いの糸が切れている状態からではハーフソールの取り付けはお勧めできない場合があります。
理由は底縫いの糸が擦り切れていると、ウェルトと革底の境目で剥がれてしまう場合があるので、その革底にハーフソールを取り付けても、その土台の革底がウェルトから剥がれてしまうとハーフソールが無駄になってしまうからです。
ちなみにヴィンテージスチール併用仕様の場合は、つま先の底縫いの糸が完全に擦り切れていてもその部分はスチールを固定するビスで革底も一緒に固定されるので問題はありません。ただあまりにも革底の残りの厚みが薄いと、革で元の厚みに補修してからつま先部分だけ追加で底縫いする必要が生じる場合もあります。
「その2・シャンク篇」に続く・・・。
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