固定仕様から調整仕様へ
ご依頼品はGUCCIの小ぶりの鞄、ストラップはチェーンとレザーのコンビで長さは固定仕様です。このショルダーストラップを長さ調整仕様へとカスタムするのが今回のお題です。
ときどき固定仕様のショルダーストラップを今回のように長さが調節できる仕様へとカスタムのご相談がありますが、ほぼカスタムが厳しい場合がほとんどです。長さ調整仕様にするには元々の長さがそれなりに長くないとできません。
一本のストラップを二つに分け、片側には美錠(留め具)を取り付け、もう片側には調節用の穴を開けてストラップの終わり部分の処理を行います。
このような加工を施すには留め具を固定する長さや調節用の穴を開けた部分から端までのあまりの長さがプラスで必要になるので逆に長さが足りなくなってしまう場合がほとんどです。
今回のストラップの場合はチェーン部分で30cm(15cmが二本)、レザーのストラップ部分で約103cmあるので合計で133cmあります。
133cmで固定仕様だと異常に長いですが、GUCCI では130cm前後が基本設定のようです。こちらの記事の鞄でも最短で135cm最長で155cm設定なので。
チェーン部分は変更できないのでそのまま利用します。なので加工できる長さはレザーストラップ部分の約103cm。この部分を二本に分けて長さ調整仕様にカスタムを行います。
切断してしまうとやり直しが効かないのでまずは間違いがないか念入りに計算。
今回のご希望の設定は最短が112cm、最長が122cm。122cmは冬場にダウンを着た時用にと。
足し算と引き算
<今回の設定>
・最短で112cm・最長で122cm
・長さ調節用の穴は2.5cm間隔で5個
・加工できるストラップの長さは103cm
まずは短いベルト側の長さを決めます。短すぎると美錠の位置が下がりすぎるのでそれを加味しつつ、長いベルト側の長さも確保できるバランスを考えます。
<美錠側のストラップの長さ>
・チェーン/15cm
・ストラップ部分/13cm
(美錠を固定するので17cmでカット)
・合計/28cm
片側の長さが決まったので残りを計算します。
<長さ調節側のストラップの長さ>
最短(はじめの穴)で112cmにするには
112 – 28 = 84
84 – 15 = 69cm
69 + 10(穴5個分の長さ) + 7 (最後の穴から端までの余り)
= 86cm
美錠側のストラップが17cm、長さ調節ベルト側で86cm使うので合計103cmなのでちょうど全ての長さを使いきりました。
詰めずに詰める
まずは103cmを17cmと86cmにカット、二つに分割しただけで詰めてはいません。片側に美錠を取り付けます。オリジナルのチェーンの接続部分に使われている真鍮色のDカンと同じ雰囲気のぽってりとした真鍮の美錠を使用します。
美錠の固定には縦長の美錠抜きと丸抜きを用いてストラップを加工します。
ストラップを17cmでカットし美錠を固定する為に折り返しで4cm使うので、結果13cmの仕上がりになります。
長さ調整ベルト側の端は形状を剣先に加工して縫製。
2.5cm間隔で5個穴あけ。
余談・縫い目の裏表。
縫い目って裏表あるのご存知でしょうか?このストラップは付け根部分が折り返され鋲で固定されています。オモテ面はこちら側(下画像)。それは縫い目のオモテ面がこちら向きだからです。
でこちらが裏面(下画像)。矢印のところで縫製を一度終わらせています。ベルトをそのまま通しで縫って、その状態で端を折り返すと表側には縫い目の裏面が見えてしまうことになります。
なので折り返しの手前でわざわざ縫製を終わらせて裏返し、そこから繋げて縫製しています。って私の拙い文章ではどういうことか伝わっていないだろうなと思いますが、気にしているメーカーだとこういうで細部も手間を掛けて製作されています。
カスタム完成
見栄え的にはあまり代わり映えしていませんが、美錠が付いて長さ調整仕様になっています。レザーストラップ部分以外はオリジナルのままです。
17cmにカットした美錠側のストラップ、チェーンを含めると28cm。
112cmの最短でセットした状態。
最短で使用した場合にストラップの余りがぶらつくのでベルトループも追加。
余談・思い込みの裏表
ご依頼でお持ちいただいた際にお客さんがチェーンの部分がすぐ絡まってよじれると。それもそのはずチェーンが半回転よじれて本体と組まれていましたので。
もしかしたらストラップと本体を組み上げる工程のGUCCIの職人さんが、ストラップの裏表を理解していなかったのか、それともたまたまなのか・・・。
縫製する人とストラップを組む人は違うので(恐らく)、ストラップの裏表を仕様書に書いていないとよくある向きでセットしてしまっている可能性もありそうです。
私もはじめは接合部分の裏表は逆だと思っていました(その向きがよくある仕様なので)、ただ縫い目を見るとそうではなかったので気づきましたが。
はじめにお客さんが「ねじれる」と言っていなかったら、私も気づかずに元のまま組んでしまっていたかもしれません。慣れと思い込みには注意しないとと思う、今日この頃です。
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