
分解はせずにご依頼を
バケットには見えないかもしれませんが確かにルイヴィトンのバケットです。すでにご依頼主さんの方で本体ストラップは付け根から切り取られ、パイピングもはずされている状態です。

ちなみにこちらがバケットのオリジナルの状態。

当初はご自身でリメイクを試みようと思われたとのことですが、挫折しそのまま放置されていたとか。縫製の糸を解かずに無理やり革パーツを引き外したりすると、縫い目でモノグラム生地を痛めてしまう事もありますのでご注意を。


レザーパーツ部分は濡れた際に強制乾燥させたのか、革が硬化してしまっている感じがします。硬化した部位が割れたのか剥がれてきたのか、接着剤を塗布して固定を試みた形跡がありました。

ほつれたり裂けたりした箇所を接着剤でDIY固定を試みている修理品は時々見受けますが、その後に修理店に依頼するのであれば何もせずお店に持ち込まれてください。

ほつれたり裂けたりする部分というのは、それだけ負荷が加わっている可能性があるので、縫製で耐えられないぐらいの箇所を接着剤で部分的に固定しようとしても無理な話です。
DIY固定させる際によく瞬間接着剤が使われている事がありますが、確かにくっ付きはしますが接着剤の種類によっては革を接着ではなく硬化させてしまい、それらは後に割れてきます。素材が硬化してしまっている場合は再修理も不可になってしまいます。
今回の依頼品は接着剤で、というよりは濡れた後に乾燥し革が硬化して屈曲部分で割れてしまっている様子です。
まずは分解

革が乾燥してカリカリに硬化しているので、糸を抜いただけで縫い目で割れてきてしまいます。ただこの部分は使わないので問題ありません。

残っている糸も残らず取り除いていきます。内装と底材は再利用しない部分です。

今回使用するのは本体のモノグラム生地のみ、経年によりだいぶヨレヨレに癖付いてしまっています。この素材はポリ塩化ビニール(PVC)素材なのでアイロンをかけて伸ばすこともできません。

いつもの定番のバケットリメイクはこちら

とりあえずの試作1つ目
今回の主なオーダー内容としては、
- ノートPCを収納
- ハンドルとストラップは取り外しできる
- 取り外し金具はギボシ仕様
- 金具の色は全てシルバー
- 革は黒色
- 内装は赤色
- ファスナーは黒地にシルバー

いきなり本番はできないので、とりあえずのサイズ感とオーダー内容を具現化してみます。今回のようにオリジナルの生地を流用して製作する場合はもちろんその素材を使って試作できません。本来は芯材を合わせた際の素材の張り感、硬さなどを確認したいのですが、代替えの素材でイメージしてあとは経験値で補います。

付属パーツもオリジナルのデザインを考えます。一般的には取り外し仕様であれば美錠金具を用いるのですがギボシ金具がご希望。ギボシ金具を使用してハンドルとストラップどちらも取り外しできる仕様にするとなると、些か細部が複雑になってきます・・・。
2個目の試作
当初はノートパソコンを直で入れるというお話でしたが、収納ケースに入れた状態で使用したいということになり寸法の変更。モノグラム生地の横幅は間に合いましたが、縦は足りないので底側は黒い革の面積を増やして調整。

PC収納ケースに入れた状態で入れるとなると、厚みがあるので通常のファスナーでは対応できなくなります。幅広のファスナーを取り寄せて対応することになりました。マチは20mmから30mmに拡張、これがファスナーのみで対応できる限度です。

内装もついでに試作。写っているダンボールは収納する内容物の寸法になっています。実際に入れた状態でファスナーに引っかからないか、出し入れは問題ないかなどを確認。
本番製作
バケットから分解した状態のモノグラム生地は、使用によってシワがよったり歪みが出ているのでモノグラム柄の水平垂直を合わせてカットするのはそのままでは難しいです。
裏に薄い革を貼り合わせます。貼り合わせる際に皺や歪みがなるだけ消えるように、ジワリジワリと生地を平に矯正しながら端から貼り込みます。

それでもモノグラムの位置が上下左右で1.0から2.0mmぐらい歪みが生じているので、裁断する際に微調整して目立たなくさせます。というかオリジナル製品でも組み立て段階でのそのぐらいの誤差は大抵ありますが。

フチは折込み仕様にするか迷いましたが、裏革の貼り込み手順の関係で折込みにするとモノグラム柄の位置関係に狂いが生じ易いのと、フチを折り曲げるとそれだけモノグラム生地の面積も必要になるので断ち仕様にし、断面を処理することにしました。

本体に残るカシメの穴はベルトを延長して隠すことにします。

付属パーツ作成
今回の依頼で何が大変だったかというとパーツの多さ。固定方法は美錠を使用しないオリジナルレザーパーツなのでいちいち設定を検証する必要がありました。

取り外しパーツはギボシ金具で固定するので、その際のベルトの輪っかの距離は適正か、取り外しし難くないかなど、それぞれ試作をして厚みや長さを確認。
仕様のご相談の際に、私としては取り外して使用する前提であれば、ギボシではなく着脱が容易な美錠金具の方がお勧めだったのですがギボシを使いたいと。

ハンドルもストラップも取り外しできる仕様だと、留め具が連結部分に全て必要になりますが、それが凸部分のみ金属がプチッと見えるギボシではなく美錠金具にした場合は、金属のギラギラ感が悪目立ちしてしまうのでギボシを選択されたのかもしれません。使い勝手とデザイン、どちらを優先するか?という感じでしょうか。
美錠金具が目立つ、ということであれば使用箇所を減らすという考え方もあります。例えばハンドルは取り外さずに固定仕様にすることで、ハンドル側の四箇所の固定金具と角カンが必要なくなります。
ご相談の途中でもアドバイスをさせていただいたのですが、リメイクやオーダーの際は色々と自由に追加できる分、実際の使用シーンをイメージして引き算でデザインを考える事も必要かと思います。(追加していくと自ずと費用もどんどん高くなってしまいますし)
組み立て
必要なパーツが揃えばあとは試作の際にメモった手順通りに組み立てていくだけです。胴(本体)両面にまずはベルトパーツを縫製、ストラップ用下部パーツを縫製、底パーツを縫製という流れで組み立てていきます。

モノグラムに黒革合わせはルイヴィトンのモノグラムマカサーシリーズで用いられている組み合わせのようですが、通常の生成りのヌメ革モデルに比べるとシックな印象に仕上がってかっこいいですね。

本体には裏革の他に樹脂板を貼り合わせています。カチッとした箱状の印象を求められているようだったので、芯材には硬さのある薄い樹脂板を貼り合わせています。樹脂板はフチから5.0mm小さく設定しているので、その段差にファスナー生地を貼り込みます。

次にファスナーの取り付けですが、ファスナーの引き手を作り忘れていたので急ぎ縫製。

ファスナーの取り付け。これはどういう状態かというと裏表が逆になっている状態です。見えているのは本来内側裏、黒いのは貼り合わせた樹脂板が見えています。

ファスナーを開けるとこんな感じ。ダンボールの型が出てきます。先ほどのダンボールは収納する内容物のサイズでしたが、これはリュック本体の寸法に合わせた型です。


ラウンドファスナーを綺麗に取り付けるには型が必要です。今回は本体側に連結金具があるので、その金具の出っ張りが型に干渉しないようにその箇所をくり抜いています。通常は木材で型を作るのですが、サイズが大きいのと、くり抜く加工が大変なのでダンボールで代替えしています。


恵比寿さまには意味はありません、縁起が良さそうですが。

ダンボール型を外すとこんな感じ、表面が出てきます。この状態で内装を取り付けてぐるっと縁を縫製します。

ノートPC専用リュック完成
美錠を使わずにギボシ金具でハンドルとストラップを固定しているので、金属パーツがそこまで目立たず仕上がっています。

ギボシで固定する為に角カンにベルトを通してループにしましたが、その結果、それがデザインとして立体的なアクセントになりました。




ストラップは長さ調節仕様。上下は着脱に必要なレザーパーツになるので、その長さ分は長さ調節に使用できるベルトの範囲(あまり)を限定してしまいます。調節できるのだからストラップを長めにしておけば?という話でもありません。

例えば制作の段階で長めの設定にしておいて、後で使用者が丁度いい長さに調節した際に、長さ調節金具が脇の位置にきて邪魔だとか、余計な不具合が出てしまうこともあります。
現在使用されているリュックのストラップの長さをお伝え頂き、それを基準にレザーパーツとの長さの兼ね合いで調節できる範囲(あまり)を設定しました。


上辺まで本体ベルトパーツを延長しています。この部分はオリジナルではカシメ金具で固定されていたので穴が空いていました。


幅広ファスナーを使用することで3.0cmのマチになっています。


内装は赤色、外装とのコントラストが綺麗です。

A4クリアーファイルポケット。


緩衝材付きの収納ケースに仕舞って鞄に入れる使い方なので、鞄自体には緩衝材は必要ないということで入っていませんが、底部の内装側には少しだけ入れています。
ファスナーを開けると180度開くようになっているので、見開いて収納するのか、それとも上部付近のファスナーだけ開閉してストンと縦に落として入れるのか、使われ方が分からなかったので念の為にスポンジを入れてあります。

バケットのリメイクは当店では定番化しているトートバックがありますが、あれはバケットの形の名残りを残したリメイクですが、今回のリュックは完全にモノグラムは生地として利用しています。
ユザワヤでこのLVのモノグラム生地がロールで売っていたら、いくらでも自由な形やサイズでストレスなく製作できるのにな、と思う今日この頃です(売っていたら100%違法ですが)