
話しが違う・・・
ルイヴィトン・バケットのリメイクは当店では定番となっていますが、今回は定番の仕様とは違うものご希望ということで、初めのお話ではシンプルな小ぶりの手提げトートバックという内容でした。
定番のバケットリメイク仕様

リメイクの方法としては二通りあります。例えば大きなボストンバックから小物を製作する場合は、鞄をバラバラにしてステッチ跡や汚れが無い綺麗な状態の部分からリメイクに必要なパーツを切り出す方法。
パーツを切り出すリメイク方法

そしてもう一つは今回のリメイクのように元の鞄の形状を利用し、サイズダウンしたり形状を変更する方法。定番のバケットのリメイクであれば何度もリメイクしているので、どこをどのくらい裁断すると完成したらこのサイズになるということは分かっています。
しかし今まで行った事がないリメイクの場合は、元の鞄の大きさからご希望のサイズや形状が出来るのかどうかを、まずは鞄を分解して確認する作業が必要になります。ここで私がモタモタしている間に、それなりに月日が経過したことでご依頼主さんの心変わりがあり、やっぱりエルメスのガーデンパーティ風にできないかと・・・。
ご依頼主さんの中ではどちらもトート風の鞄だし、大した変更ではないと思われていそうですが、これがまぁ大変なんです(私も初めはそこまで難しいとは思っていなかったのですが)
定番のバケットリメイク仕様

リメイク方法は二通り
・バラバラに分解してパーツを切り出す方法
・サイズダウンや仕様変更など元の鞄の形状を生かす方法
そもそも寸法が足りない
エルメスのガーデンパーティはいわゆるトートバックの形状ですが、マチの部分がドットボタンで閉じて折り畳める仕様になっています。
エルメス・ガーデンパーティ

マチを折り畳むにはある程度のマチの幅が必要になります。

バケットは底が丸い形状になっていて、底を取り外すと本体のシルエットは台形状になります。
ルイヴィトン・バケット

底を外す前のシルエットは逆台形でしたが、底を外すと円周の距離が直線になるのでシルエットは台形になり、上部が窄まっている形状です(下画像)
今回リメイクに使用できる生地の形状

この面積からパーツを切り出して再構築すると、お弁当箱がなんとか入るくらいのランチボックス的なサイズの鞄しかできません。なのでパーツを切り出す方法でのリメイクではなく、この状態から再構築するのがベストですが、それでもマチを折り畳むには寸法が足りていません。なので、ガーデンパーティのマチを折り畳んだ状態のシルエットに似るように設計することにしました。
試して考える
ご依頼主さんからご希望の寸法は伺っているので、なるべくその寸法の近似値に仕上がるようにまずは試作してみます。サイズダウンや仕様変更のリメイクの場合は、単純なものであれば計算して直にオリジナルの素材を加工することもできますが、今回のように筒状の形状に底パーツを内縫いで取り付けたり、上下を詰めるような場合は計算では近似値が導き出せません(私の能力では)
筒状のままリメイク

ちなみに合わさり目のモノグラム柄はオリジナルの状態で少しずれています。シルエットが台形なので、そもそも物理的にサイドの縫い合わせの柄はいくらルイヴィトンでも合わせられません。
ここを一旦分解し再び縫製するとなると、元がズレているので位置関係が分かり難いですし、縫い代分が必要になり、使える面積も減ってしまうので筒のまま作業するのが良いかと。

オリジナルをカットしたり折り曲げて寸法を調べることができないので、とりあえず筒状の同じ寸法のものを用意し、それにご希望のマチ幅と横幅の底パーツを取り付けて試作するとこんな感じ(下図・試作1号)

これで叩き台はできたので、この状態から上下からどのくらいカットして底を付ければご希望の寸法に近く、またガーデンパーティのシルエットに似るかを探っていきます。
底部はエルメスのガーデンパーティは帯革で切り返しになっているので、その部分の高さも合わせて検討します。ガーデンパーティは鞄のサイズが5パターンありますが、サイズによって帯革の高さの設定(本体に対しての割合)が違っています。
ただこれも一定の割合ではないのか、小さいモデルでも高く設定されているものがあったりとルールがわかりません。

試作を元に折り返してみたりしてバランスを確認し、上下でどれくらい詰めるのかが大体決まってきたので、あとは帯革と全体のバランスを見ていきます。


試作3号で本体の設定は確定しました。試作の際にはパイピングの巻革の厚みはこのぐらい、縫い代はこのぐらい、漉き幅はこれぐらいなどと詳細も決めていきます。

ただまだ確認する部分が残っています。エルメスのガーデンパーティはハンドルが付け根のキワまで本体に縫製されているのが特徴です。この仕様だとハンドルが手前に倒れなくなります(自立します)。その状態で本体の縁のパイピングをミシンで縫製できるのか?が不明です。
縁のパイピングを縫製してからハンドルを取り付ける順番だと、内装側のポケットも付け根の縫製の際に一緒に縫製されてしまうので、ハンドルの付け根縫製→内装取り付け→縁のパイピング縫製という順番になります。
なので片面だけ本番と同様のハンドルを取り付け、その状態で縁のパイピングをミシンで縫製できるかどうか確認してみると、縁を倒し気味にすることで意外とスムーズにミシンで縫製できました。
ハンドルも本番仕様の試作4号

底面もガーデンパーティ同様にベルトが続いているようなデザインを踏襲。

試作を4つ行いましてようやく本番となります。

本番制作
まずはこんな感じで本体になる部分の上下を詰めます。

ハンドル、底材、帯革、パイピング、底ベルトなどレザーパーツを準備。革の色はダークブラウンのスムースレザー使用します。
・シュリンクレザー/型押しやシボなど表面に凹凸がある
・スムースレザー/表面が滑らか


試作の段階でパーツそれぞれ寸法を割り出しているので、それを元に正確に切り出して漉き加工やコバ仕上げなどの下処理を行います。あとは試作の際にメモ書きした取説に沿って、それを黙々と組み立ていくのでプラモデルのような感じです。

ちなみにメモ書きはこんな感じ。これは試作の際にメモ書きしたものをまとめた本番用の最終取説。試作段階を含めるとこれの3倍くらいのメモ書きがあります。

加工する寸法などはもちろんですが、試作の際に気づいた注意点や間違えそうな箇所、手順など記載しています。

ハンドルの取り付け・付け根直縫い
ガーデンパーティは一般的な丸芯の持ち手と異なり付け根のキワまで本体に直縫いされています。付け根まではミシンで縫製できないので直線はミシン、付け根部分は手縫いを併用します。
ガーデンパーティはエルメスでも手縫いとミシンを併用して仕上げているようです

付け根というのはこの部分、平なベルトから丸い持ち手に変化していく付け根の部分。ガーデンパーティはこの部分まで本体に縫製されています。この仕様は付け根の裏まで回り込んで縫製するので手縫いでしかできない為、量産品では手間とコストがかかるのであまり見かけません。

手縫いで縫製する際は、通常は菱ギリという刃の断面形状が菱形の針を使用します。すべて手縫いで菱ギリで穴開けを行うのならば問題ありませんが、ミシンでの縫製と併用する場合は縫い目の印象がそれぞれで若干違って見えてしまいます。

ですので下穴を開ける際は、ミシンの縫製で使用した針を柄に取り付け、お手製の針ギリで穴を貫通させていきます。開ける際の針先の向きも揃えないと、折角ミシン針で開けても縫い目が違ってしまいます。

下穴を貫通させたら、ミシンの縫製の際に長く残しておいた余り糸を使って付け根を本体に縫い付けていきます。

付け根をぐるっと回り込んで反対側のミシンの縫い目に連結させていきます。メッシュのテープが貼ってありますがこれは傷防止です。回り込む部分は付け根の立ち上がりがあるので、針ギリを斜めに刺しますが、引き抜く際に刃先が当たって革に傷を付けないように念の為。

付け根まで直に縫い付けることでハンドルが自立し見栄えの印象も変わってくるので、ガーデンパーティ風にするならば手間ではありますがここは再現しておく必要があります。
4箇所付け根を縫製したら内と外をくるっと反転させます。この状態で底パーツの取り付けを行います。底パーツは内側で縫製してからひっくり返すことで縫い目が外観に見えない仕上がりになります。これももちろんガーデンパーティを再現しています。

嫌な予感がするので・・・
試作の段階で一度うまくいかなかった工程がありました。胴(本体)と底面を内縫いで縫製するのですが、その部分は帯革、本体ベルト、底面、底面ベルト、パイピングと沢山の素材が重なるので、重なる部分を強度が維持できる範囲でなるべく薄く加工しても、実際に針が刺さり縫われる部分は5.0から7.0mmぐらいの厚みになってしまいます。
丸芯を入れたパイピングのキワで縫製したいのですが、縫い割りする状態ではパイピングは見えません。段差と端からの距離を頼りにキワの位置を特定し縫製はできるのですが、ベルトやマチ部分など部分的に厚みが変化する箇所では、端からの距離が微妙に変化するので内側を縫い過ぎてしまう失敗が試作段階で一度ありました。
これを失敗してしまうと1からやり直しになってしまいます。試作ではこの部分は全てミシンで縫製していて、4回中失敗は1度だけ。どうしたものか・・・。

ミシンで縫製しない場合は自動的に手縫いになりますが、手縫いでこの厚みを縫い割りして果たして綺麗にラインが出るのだろうか?という疑問も。ミシンで縫製して失敗した時の絶望感と、手縫いでの手間を天秤にかけ、ここは安心安全な手縫いで行うことに。
とりあえず同じ厚みの設定の部分サンプルを制作して手縫いで縫い割してみることに。縫い目のピッチ、菱ギリを指す角度などを確認。結果は全く問題ありませんでした。

菱ギリを指す角度は気持ち内側に傾けるとパイピングのキワを抜ける感じです。素材が重なる断面は薄く見えますが、針を刺して縫製している部分の厚みは5.0mmぐらいあります。ある程度厚みを残さないと縫い目の強度が弱くなるので作業性と耐久性、見栄えのバランスです。残す厚みが厚すぎると縫い割って折り返した際に綺麗に角が倒れなくなります。

底面ぐるっと一周手縫い。

ひっくり返す
底の内縫いが完了したら内外をひっくり返していきます。まだ外側になる面が内側にある状態、ハンドルもまだ内側になります。


靴下を丸めて脱いでしまった時のひっくり返すような感じの要領です。ただこれも慎重にひっくり返さないと縫製部分にダメージが生じてしまったり、縫い割りが裂けてしまったり、革に余計なシワが入ってしまうのでじわりじわりと。

試作の時は本体に厚みのある革を使っていても、ひっくり返すのはさほど力は入りませんでしたが、本番のモノグラム生地にベルトが縫製された状態でひっくり返すのは硬くて大変ということが判明。生地がギシギシ鳴いています。

内装制作
エルメスのガーデンパーティは内装が外装の生地裏に直貼りで一枚仕立ての仕様と、別パーツの仕様があるようですが、今回のリメイクでは別パーツ仕様で。
そもそもバケットの生地を筒状のまま使っているので、その状態で裏地を直張りにすることはできませんし。まずは内装の試作を行い寸法決め。これは外装の寸法が分かっているので一発で決まります。

内装の仕様は生地の色がブラウンでオープンポケット1つとファスナーポケット1つ。


このポケットを作る時は、何もない平な所にスペース(空間)ができるからか、いつもドラえもんの四次元ポケットを想像してしまいます。




想定外に縫えない
内装を本体にセットしたら次は縁取りのパイピング縫製。下の画像は試作の際にハンドルを取り付けた状態で縁のパイピングが縫製できるかを確認しているところ。

ハンドル付け根まで本体に縫製するため手前に倒れないので、パイピングをミシンで縫製する際にハンドルがミシンにぶつかってしまい縫製できないかも?でしたが試作の際には問題なく縫えていたのですが・・・

いざ本番を縫製しようとミシンのセットしてみると、何故だかハンドルが引っかかる。試作の際は確認なのでハンドルは片側のみ取り付けていました。本番ではもちろん両面にハンドルが付いた状態になりますが、それだと裏面のハンドルがミシンの腕につっかえてしまいステッチが乱れてしまう可能性が・・・。

先程の底面の縫い割りと同様に、ここまで進めてきて失敗する訳にはいかないので、パイピングの縫製も手縫いに切り替えることに。ミシンで縫製すれば一瞬ですが、手縫いだとチクチクと時間が掛かります。ただもうゴールは近いですし、手縫いは嫌いではないのでモチベーションは高めです。

ハンドルが倒れないので付け根裏部分は穴あけも縫製もやりにくい。



ストラップ用のDカン金具の取り付けも手縫いで。マチの縫い合わさり目の段差があるので、そのキワで縫製しステッチが目立たないようにします。



現状、恐らく世界で一つの鞄
ルイヴィトンのバケットをこのサイズのガーデンパーティ風にリメイクしたモノは、現状では世界でこれ一点のみではないかと。底部105mm:290mm/本体高さ200mm(ハンドル除く)

底鋲があるので擦れやすい角のパイピングや底面が直に床に触れずに傷みにくい仕様です。

このモノグラムにダークブラウンのレザーを合わせるのは、オリジナルでは製品ラインナップにないのかもしれませんが、なかなかいい感じかと思います。ちなみにブラックレザーを合わせたモデルはラインナップにありますが、こちらのブラックレザーを合わせたリュックは恐らく世界で一つのリメイク品かと思います。
バケットをリュックにリメイク


ハンドル付け根の本体側に見える2本のステッチは、オリジナルのベルトが縫われていた縫製の跡。空いた縫い穴が見えてしまうので飾りステッチを施しています。

底鋲は市販品だとほぼ四隅にしか付いていませんが、実際に荷物を入れると中央が一番沈むのではないかと思います。なので当店で底鋲を取り付ける際は標準で5点仕様となっています。

Dカン金具・留めボタン・底鋲のゴールドの金具がちらっとあることで、アクセントになり高級感も出ますね(そもそもルイヴィトンのこのぐらいのサイズの鞄は、30から40万円ぐらいするので、すでに高級なのですが)

底鋲と併用して底板も入っていないと底鋲としての効果は期待できませんので、もちろんしっかりした底板を内部に施工しています。(底鋲と底板はガーデンパーティとは異なる仕様です)
ハンドルの立ち上がりは綺麗に仕上がったかと思います。エルメスのガーデンパーティの場合は、立ち上がり部分は革が1枚で仕立てられていますが、当店の場合は革が2枚重ねになっています。

オリジナルの形状を確認する為に画像検索していて判明したのですが、エルメスのガーデンパーティのような付け根まで縫製する仕様では、使い方(持ち方)によっては付け根の縫製部分に負荷が集中する為に痛みやすいようで、縫製が外れて内部(付け根内側)が見えている修理事例がヒットしました。
また革を1枚で仕立てると膨らみが綺麗に出なかったりもするので、補強と見栄えも兼ねて付け根は革を重ねて仕上げてあります。

ハンドルの直線部分と本体ベルトの直線部分のみミシン縫製で、縁のパイピングや底の内縫いなど距離が長い部分は結局は手縫いになったので、であれば初めから全て手縫いで行った方が、作業性は良かったのではないかと今更思ってみたり。

ストラップを使用しない場面では、金具は内側に倒せるので見せないようにすることもできます。

コロンとした小ぶりの手提げタイプ。サイズ感が可愛い感じです。

貴重品や小物が入るファスナーポケット。

スマホが横向きで収まるサイズのオープンポケット。入り口の留め具はガーデンパーティと同じドットボタン仕様。このボタンも一般的なものでは長さが足りず焦りました。

右が通常の足の長さ、左が今回の超足長。

本体に穴を開けてから金具の長さが足りないことに気づき焦りました。試作の本体は厚みのある革で製作していても金具の長さは足りていたので油断しました。
本番はモノグラム生地を芯材で補強したり、内装生地にも補強で裏張りした結果、微妙に金具の長さが足りなくなっていました(ギリギリ足りてはいそうなのですが、ちょっと心配な感じ)
通常利用しているいくつかの金具問屋さんでは、ドットボタンの超足長は取り扱いがなく、ひたすらネット検索で全国の金具屋さんを探し回り、ようやく1店舗だけ超足長のドットボタンを取り扱っているお店を見つけ、ほっと。

一般的なトートバックはガーデンパーティのようにマチを畳まないと、開口部は外側に広がり逆台形のシルエットになるのですが、もともとのバケットの台形だったシルエットを利用し、寸法を設計したので、開口部が横に広がらずにスッキリとした上品なシルエットに仕上がっているかと思います。

この記事を書いていて思い出したのですが、13年くらい前にオーダーで一度このようなシルエットのネイビーのオールレザー鞄を製作した事があったなと。
閉じた際に横に広がるマチ分を上部でマイナスの寸法に設計しておくことで、開口部を留めても留めなくても大きく広がる事がなく、すっきりとしたボックスシルエットにすることができます。
それを作業前に思い出していれば試作数はもっと少なく済んだかなと思う今日この頃です。

便宜上、文中では本体の素材をモノグラム生地と言っていますが、正式にはトアル地と呼ばれる素材です。エジプト綿にPVC(ポリ塩化ビニール)という合成樹脂のコーティング加工を施したものです。
