プレゼントされた鞄は捨てられない。TUMI持ち手交換と裂け補修

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TUMI定番の持ち手の裂け

バタバタしていてなかなか修繕日誌を更新できていないので、この案件も2年くらい前の事例なので記憶が定かではないのですが、(アップできていない修繕事例の画像が4年間分くらい溜まってしまっています・・・)確かパートナーさんからプレゼントされた鞄という事でした。

なので色々と痛んでいるけど直して使い続けられたいと。持ち手はいつものようにスポンジ芯に革を巻いているだけの柔な持ち手なので重さに耐えきれず伸び切って断裂必死。

いつも思うのですが、依頼前日に突然この状態になったわけではないのでしょうから、この状態でどうやって最近まで使われていたのだろうか、と・・・。

持ち手以外にも本体に裂けがあります。トップラインの縫製部分に沿って革が裂けています。裂けの原因としては、革の端処理と補強がうまくできていないのかなと。

縫製ラインで裂けている

革の裁断面の処理方法としては、裁断したそのままの切っぱなしパイピング(玉縁・縁取り)などその他各種ありますが、今回は革の端を薄く漉いて内側に折り返す、折り込みという仕様になっています。

裂けた箇所から、ちらっと白いナイロンテープが見えています。ナイロンテープは伸び留めや縫製箇所の補強に用いられます。

折り返しする際に革を薄く漉いた箇所にナイロンテープを挟み込んでいたのだと思いますが、縫製された位置(深さ)までしっかり挟み込めていなかったようでズレています。ナイロンテープが無く、縫製位置は薄く漉いた革のみでしたので裂けてしまったのではないかと。

外装の革に縫製された持ち手付け根は上側に引き上げられ、内装は荷物の重さで下側に下がろうとするので、補強が足りていない裂けた縫製箇所にその荷重が加わり引き裂いてしまったのではないかと。もしくは単純にファスナーの開け閉めに耐えきれずに裂けた、という想定もできますが。

乾燥している革

その他の要因としては革がだいぶ色褪せて乾燥しています。乾燥すると革の柔軟性が乏しくなるので負荷が加わると裂けてき易くなります。

耐久仕様の持ち手製作

スポンジ芯が入っていますが伸びて上にずれて付け根部分はぺったんこです。

オリジナルの柔な持ち手

交換する際は耐久仕様での交換になります。耐久仕様というのは芯材にそれだけでも持ち手になる充分な厚みのヌメ革を用い、それをもう一枚の革で包んで貼り合わせた堅牢な持ち手になります。

ヌメ革の芯材

付け根までしっかりとヌメ革の芯材を入れ込みたいので、付け根に斜めにステッチが入っているオリジナルとデザインは異なります。画像は部分試作サンプル。

部分試作

交換といってもTUMIのレザーハンドルの鞄は微妙に連結金具のサイズなど異なっている為、その都度で試作サンプルを作るのでオーダーみたいなものです。

現行モデル耐久仕様はこちら

ヌメ革の芯材切りだし。この革はスパニッシュチェアの座面ベルト補修にも使用している栃木レザー社製の堅牢なヌメ革になります。

栃木レザー社製のヌメ革

持ち手の長さ(高さ)や幅はオリジナルを踏まえて製作しますが、仕様を強化していますので多少数値の変化はあります。

型紙

ヌメ革の芯材を巻き込んでいきます。ヌメ革の芯材以外にも適材適所に幾つかの部材を補強で使用しています。

ヌメ革の芯材を包んでいます

修理の際にはすでに完成している鞄に持ち手を曲げて左右連結させていくので、オリジナルを制作するより難度は高い工程になります。

オリジナルの製造段階では持ち手は平らな状態で仕上げ、エンドに連結金具を取り付けます。次に平らな状態の胴パーツ(鞄正面と背面)に取り付けることができます。

しかし修理の際には連結金具は本体側に固定されている状態です(金具を元に戻す工程を考慮すると基本的に取り外せない)

本体に固定した状態で新しく製作した持ち手を組み立てて、ミシンをかけ、コバを仕上げていくというのは不可能なので、まずは途中段階まで持ち手を完成させた状態にします。

手縫い併用

その後、本体の連結金具にそれぞれ接続し手縫いで縫製しコバ(断面)を仕上げます。

完成

ヌメ革の芯材を用いているので使い始めは硬さがありますが、徐々に手の形に馴染んでいきます。タンニンをたくさん含んだヌメ革には可塑性という性質があります。

可塑性というのは力を加えた後、その力を取り除いても形状を記憶している、という性質です。

といってもすぐには現れませんが、荷物の重さにより持ち手がしなり、徐々ですが日々握る手のカタチを覚えてゆきます。

巻いてる黒革もオイルを少し含んだヌメ革なので通常の革より乾燥に強く耐久性は高いかと思います。

トップラインの裂けは内側にナイロンテープを挟み込み、革で補強し目立たないように縫製。ただこれでは強度が弱いので、一段下がったところに全体を通しで一列縫製し、ダブルステッチに見えるようにしました。

裂け補修
下段が追加した縫い目

色褪せて乾燥していた革も補色を行い、保湿仕上げを行いましたので黒艶が戻っています。革は痛んでも痛んでいなくても使い始めから定期的に保湿を行うことが重要です。

修理した靴や鞄の返却の際に、艶やかになった修理品を見て、保湿クリームは何を使っているの?と尋ねられますが、当店では基本的にサフィール社のユニバーサルレザーローションのみとなっています。

オススメの保湿クリーム

靴のお手入れの場合はレザーローションのほかに、革の色に合わせた乳化性の靴クリームとお好みで油性ワックスを用いています。

今までの靴に使っているクリームでもいいの?ともよく尋ねられますが、色が付いている乳化性の靴クリームはもちろんNGですし、ローション系でも溶剤成分が強めの場合もあるので、使われている商品の取説で確認し、目立たないところで試してみてからの方が安心です。

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