壊れるのには訳がある
以前も同様の補修事例を掲載しましたが、しばしば同様の箇所が壊れるご依頼を頂くので、改めてご案内します。
壊れるのはストラップの下側の長さを調節するパーツの付け根、この部分の縫製またはナイロン生地が裂け、調節するパーツが外れてしまうという事例になります。
こちらが正常、しかしよく見るとキワで裂け始めている。
こちらが壊れた側。パーツを連結していたナイロンベルトは紛失したとのこと。縫製が解けてナイロン生地も若干裂け始めています。
このリュックのこの部分が壊れやすいのには理由があります。ストラップに縫製されている他のパーツについてはストラップを貫通し表と裏生地ともに縫製されています。
ちょとピンぼけですが裏地まで貫通して縫製し固定されています。
では今回の部分はというと、このストラップは靴下にように袋状に裏地のメッシュ素材とナイロン生地が縫製され、その中にスポンジが収まっています。その袋の表面の生地のみにこの部分は縫製されています。
他の部分同様に裏地まで貫通して縫製していればしっかり固定できるのですが、袋状の生地表面にのみ縫製しているので、パーツが左右に引っ張られると、縫製している土台の生地もブレやすい状態なので、結果、縫製が先に解けるか、生地が耐えられず裂けるかという状態なのかと思います。
付け根の補強補修
解決方法としては縫製箇所のナイロン生地を革で補強し、他の部分同様に裏地まで貫通して縫製することで土台にしっかりと固定できます。
縫製する箇所を革で補強することで、縫い目に負荷が掛かっても革がストッパーになり裂け難くなります。
リュックのその他の壊れ易い箇所
TUMIに関わらずですが、リュックでダメージを受けやすいのはストラップの付け根部分。リュックを背負う時にはどうしても片側のストラップから背負うので、その最中は片側の付け根(矢印部分)に荷物の全ての重さが集中してしまいます。
または荷物を出すときに片側のストラップを外し、片側持ちの状態でファスナーを開け閉めしてゴソゴソなんてことも。
ナイロンリュックの付け根の裂けの場合は、構造により修理不可のものが多いです。画像のモデルは修理不可となります。
ナイロン素材のものはそれぞれの工程で幾重にも縫製されているので、それを全てバラして組み立て直すのはあまり現実的ではなく、分解の際に縫い穴付近でナイロンがほつれ始めてしまうリスクもあります。
ファスナーの開け閉めの際には、角の部分で引き手を引っ張る向きが変わるので、スライダーの動きが悪くなる時があります。その際に強引に開け閉めしていると、このコーナー部分でファスナーが壊れがちです(エレメントの損傷や生地の裂け)。
リュック本体の背面やストラップの裏面にはメッシュ素材のナイロン生地がよく使われています。ストラップの表素材と裏のメッシュは内縫いで縫製されていますが、この境目が洋服と擦れて縫製が切れてしまいほつれてしまうことがあります。
見栄えが悪くても宜しければ革を充てるなどで裂けた部分を塞ぐことはできるかも知れませんが、大抵は修理不可となります。
TUMI タイマー
TUMIでこれはブラックだな、と思うことがあります。(ブリーフケースでも)装飾パーツに革が使われていますが、所々には革と見栄えは同じですが合皮素材が使われています。
リュックの底部分、ここも合皮かも知れません。以前同じモデルで熱いものに触れたら表面が溶けたので修理できませんか?(修理不可です)というお問い合わせがありました。革は溶けないので恐らく合皮またはその類ではないかと。
TUMIのリュックの価格帯は8万から30万くらいするので、その価格帯で一部でも合皮を使うっていうのはどうなのだろうかと思います。いくら本体のバリスティックナイロンが丈夫でも、3年ぐらいで必ず劣化が始まる合皮を併用するというのはちょっとブラックな香りがします。
「ある一定期間を過ぎると壊れるように仕込まれている」というような話を聞くと、46歳以上の年代であればソニータイマーという言葉を思い出すかもしれません。
それは製品の保証期間が過ぎた頃にちょうど壊れるように、ソニーの高い技術力で製品の寿命をコントロールしているという噂のアレです(*完全に都市伝説ですが)
TUMIの場合は技術力というわけではなく、単に素材の劣化まかせなのですが。
コストカットで部分的に合皮を使うのならば分からなくもないですが、見た感じどちらも焦茶色の革のように見せていて、実は部分的に合皮、というのはコストカットというよりは、見栄えを悪くさせて買い替えさせるTUMIタイマーなのではないのか?と勘繰ってしまいます。
ちなみに現行モデルのブリーフケースの持ち手の場合は、旧モデルに比べ耐久性が劣る仕様変更がされています。恐らくこれは旧モデルがあまりにも壊れない為、新製品では持ち手を壊れ易くし(本体はほぼ同じデザイン)、買い替えを促す為の別タイプのTUMIタイマーなのではないか?と(*店主の勝手な見解です)
目利きになる
ブラック製品の対応策としては、購入する際に素材には何が使われているか?をしっかりと確認することです。
近頃の合皮はよくできているので手触りや見た目では見分けが難しい場合もありますが、例えばHPでも素材は確認できます。
赤枠部分、これは詳しく見るをクリックしないと折り畳まれ隠されている部分で、都合の悪い事は小さな文字で記載して気づかせない作戦が実行されています。
そこには何が記載されているかというと、
TUMI HPより引用
本体にはリサイクル素材を使用したトゥミのシグネチャーであるバリスティックナイロン、本体のアクセントには耐擦傷性のコーティング素材を採用した、より高い耐久性を誇る洗練されたスタイルが揃います。
耐擦傷性のコーティング素材とは一体なんでしょうか?
【合皮ですか?どのくらいで劣化しますか?】と、TUMIのカスタマーセンターへ問い合わせてみたところ・・・
TUMI カスタマーセンターの回答
素材はポリウレタンで、一般的にポリウレタン素材の寿命は3から5年と言われています。
ポリウレタン素材とはいわゆる合皮です。(TUMIのカスタマーセンターは、恐らくチープな印象を与える合皮とは表現したくないので、ポリウレタン素材と回答したのかと思います)
合皮は布地(基布)に合成樹脂が塗布されて作られていますが、ポリウレタンを使用したものPUレザー、塩化ビニールを使用したものがPVCレザーと言われています。
・ポリウレタンを使用したものが、PUレザー
・塩化ビニールを使用したものが、PVCレザー
ユニクロでも以前ネオレザーという名のポリウレタンを使用した革風のブルゾン類が販売されていましたが、【ユニクロ・ネオレザー】で検索すると、悲しい末路のトピックばかりが並んでいます。
メーカーではしばしば合皮という言葉を使わず、消費者を惑わすネーミングを使いがちです。
ルイヴィトンのモノグラムはPVC素材(LVではトアル地という呼称)ですが、これは優秀です。10年、20年経過しても(使用環境により若干素材が硬化している場合もありますが)問題なく使用できる水準で品質が維持できています。(ただ内装に合皮を使っているので、ルイヴィトンもブラック団の一味ではあるのですが)
なので、全ての合皮が3年から5年縛りというわけではないですが(使用環境にかなり依存する)、合皮素材は使用しても、しなくても必ず劣化してしまうので、購入する際にはその性質を考慮するべきかと思います。
使用期限が 3年から5年で10万円なり
ここでの使用期限とは鞄として使用できなくなるという意味ではなく、【合皮の表面塗装が劣化し見栄えが悪くなる状態までの期日】という意味で用いています。
カスタマーセンター曰く、このモデルの場合は両サイドにある大きめの収納ポケット(青枠部分)に使われているのが、ポリウレタン素材(合皮)ということでした。
この部分が3年から5年で劣化してしまうということは、それがこの鞄の外観上の使用期限ということでしょうか。
ここで重要なのは、あなたが購入し使い始てから 3年から5年 で劣化する、という事ではありません。
劣化はこの素材が作られてから3年から5年ということになります。素材が製品になる前の状態で、在庫として倉庫に眠っている間も劣化は着々と進行していきます。
デザイン、仕様確認/2ヶ月
合皮やナイロンその他の調達/1ヶ月
/2ヶ月
/1ヶ月
例えばですが、鞄を企画してから店頭に並ぶまでに半年、売れ残って翌年にアウトレットに回され、それからしばらく並んでいた商品をあなたが購入したと仮定すると、ポリウレタンの製造からすでに1.5年くらいは経過しているので、劣化が始まるまで残り1.5年のカウントダウンということになります。
同様に劣化するウレタン系のソールを使用した靴をアウトレットで購入し、一度履いたらソールが割れた、ということでソール交換のお問い合わせもしばしばあります。これは購入時点ですでに使用期限が過ぎていた事例になります。(アウトレットとメルカリはリスクが高いです)
高級品だから作り(素材)がいい、というのは都市伝説に近い現代社会なので、今回のようにメーカーに問い合わせすると、意外と正直に答えてくれたりします。店頭で面と向かって根掘り葉掘り聞きにくいと思うので、事前にメールで確認するのも自衛になるかと思います。
とある高級ブランドでは路面店ショップスタッフでさえも、その鞄(20万ぐらい)がほぼ合皮で作られている事を知らないという事もあるようなので(本国のイタリア本社に問い合わせて、しばらく経って【合皮です、修理不可です】と返答される*お客様談)、カスタマーセンターで確認するのが確実かと思います。