スパニッシュチェアの背もたれを部分補修ではその後が心配なので作り直す案件。その1

スパニッシュチェア
目次

スパニッシュチェアの定番修理とは?

定期的にご依頼があるスパニッシュチェアの座面修理(FREDERICIA・SPANISH CHAIR)。でもその殆どが座面裏の固定ベルトの千切れ補修か、または背もたれの固定ベルトのやはり千切れ補修。

この固定ベルトは定番修理になっていて、同じ方からのご依頼もしばしばあります。座面は四本のベルトで固定されていて、一番負荷が掛かる手前かまたは奥のベルトが千切れがち、その後に次の一本、二本と。まとめて三本という場合もありました。

スパニッシュ

スパニッシュチェアって?

北欧家具の巨匠、ボーエ・モーエンセンが1958年にデザイン。モーエンセンの自邸用にデザインされたもので、スペイン旅行中に見かけた貴族階級の椅子からインスピレーションを受けているらしい。今回は座面のベルトの補修ではなく、背面部分のレザーパーツを部分補修からの全て作り直し案件となります。

スパニッシュ
出典元・FREDERICIA

こんな感じでスパニッシュチェアのベルトは美錠で固定する穴が経年劣化で耐えきれずに、また革の乾燥により硬化し割れてしまうことがほとんど。今回は定番の座面の固定ベルトの千切れ補修ではなく背もたれの部分補修(結局は作りかえる事になるのですが)。柱に通す輪っか部分の千切れと固定ベルトの千切れ補修になります。

スパニッシュチェア
座面の固定ベルトの千切れ

背もたれの痛み具合はどんな感じ?

こちらが今回ご依頼の背もたれパーツ。

スパニッシュ

ヌメ革が経年変化により黄褐色にエイジングしています。エイジング具合はいいのですがあまり保湿が行われていなかったようで負荷が掛かる柱に通す輪っかやベルトの角になる部分が乾燥、硬化し割れてきている状態。

スパニッシュチェア

縫い目の部分が乾燥と硬化によりステッチが切り取り線のようになってしまいそこで綺麗に裂けてしまっています。この部分は背もたれに預けた体重が集中する部位なので耐えられなくなった感じでしょうか、糸で革を裂いてしまった様子です。

スパニッシュチェア
スパニッシュチェア
スパニッシュチェア

柱を通す輪っかやそのほか千切れた箇所以外の革も全体的に硬化しひび割れが生じてきています。ただ革の厚みが厚いので表面のひび割れ程度であれば今すぐ切断することはないのですが、確実に将来的には千切れてしまいます。革は一旦ひび割れたり硬化してしまうと、そこからいくら保湿を行なっても元の状態までには戻すことはできません。

現状維持か良くて少しましになる程度です。人間の皮膚と違い新陳代謝をする訳ではないので、現状の状態をいかに維持していきつつ育てていけるかになります。それには痛んでも痛んでいないくても革は日々の定期的な保湿ケアが重要になります。

スパニッシュチェア
スパニッシュチェア

座面のベルトは革を両面合わせて二重になっていますが、背面ベルトは途中まで同様に二重ですが柱に通す都合上なのか途中から革一枚になっています。なので貼り合わせた二重と一枚だけの境目は弱くなるのでその部分で切断してしまっています。は高いのですが・・・。

スパニッシュチェア

まずは部分補修の方向で進めていましたが・・。

柱に通す輪っか部分の補修とベルトを補修していきます。補修といっても切断している部分に新しく代替の革パーツを繋ぎ合わせていくしかないのですが。ベルトの補修は幾度となく交換していましたが今回は柱の輪っかの交換。この部分はこれまでに交換したことがないのでどうしたものか・・・。

座面のベルトであれば画像のようにベルトが別パーツになっているので取り外して新しいベルトに交換できるのですが背もたれの場合はベルトも輪っかも全て一体のパーツになっているので切断して継いでいくしか方法はなさそうです。

スパニッシュチェア
スパニッシュチェア
座面ベルトの場合は別パーツになっている

輪っかの付け根部分の縫い目で裂けてしまっているのでこの部分の縫い目は再利用できないので縫い目部分から作り直すように加工していきます。

画像はすでに千切れてしまっている輪っかとは反対側の柱の輪っか部分。こちら側の付け根はまだ千切れていませんでしたが輪っかの角部分は割れて同様に劣化はしているので左右とも交換に。こちら側の縫い穴は裂けてこそいませんが、じきに同じような状態になるのでこちら側も合わせて縫い目の手間で表革を切断。

スパニッシュチェア
スパニッシュチェア
スパニッシュチェア

表革と裏革で切断位置をずらしているのは、切断位置が同じだとその位置に負荷が集中するので互い違いにして負荷を分散させる狙いと、裏革の状態は良く端もなだらかに薄く加工されているのを利用する為です。

スパニッシュチェア

背もたれのベルトの型取り。20年近く使われているということなので椅子の形状に革が癖付いています。ベルトの下側のラインが直線なのか絞られているのか微妙です。微妙なので恐らく直線だったのだろうかな・・・。

スパニッシュチェア

難しいのが輪っかの設定。オリジナルはすでに柱の形状に四角く癖ずいていますが、これを広げた長さを信用していいものだろうか?と。四角い形状になっているのですっぽり収まるのですが、新しく作成する輪っかは、輪っかの形状なのでそれを四角い柱に差し込む時には恐らくかなり窮屈でなければなりません。なりませんというのは現状の四角に癖付いているパーツもはじめは窮屈でなければ今のようなぴったりした感じの収まりにはならないからです。

スパニッシュチェア

使用するのは栃木レザー社のフルベジタブルタンニン鞣しのヌメ革。ヌメ革で補修を行う際の問題が革の色です。ヌメ革の場合はエイジングをして色が濃くなっているので色を染色したり塗装してつけている訳ではありません。なので交換した部位は新品時同様にベージュ色になります。

座面裏のベルトであれば色が異なっていても見えない部分ですし、それに徐々にエイジングをしてオリジナル同様に黄褐色へと色が深くなっていきますが今回は一番目立つ背面パーツ。エイジングして色が馴染むのを待てるのかどうか。

ベルト部分は革が二枚から一枚に切り替わる境目で痛んでいたので、背面から続く二重部分に連結するようにベルトの革も二枚合わせで作成しオリジナルより強度を高めます。

スパニッシュチェア

このヌメ革もイエローやキャメルやブラウンなど色を入れてある製品もあるのですが、色が入っているヌメ革を使っても、その時点では色が近いかもしれませんがその状態からエイジングして行った時にもともと染色していたヌメ革とオリジナル部分のヌメ革では結局色が違ってきてしまうと思います。なのでヌメ革の場合は何がベストなのか正解は謎です。

あとはベージュ色が気になるようであれば画像のように革用のオイルを塗布することで日焼けローションと同じでヌメ革も陽に焼けやすくなるのでエイジングのスピードを速めることもできます。ただ革用のオイルも塗布しすぎると革の繊維が緩くなってしまう場合があるので使い方に注意が必要です。(*この革用のオイルとは日頃オススメしているサフィール社のユニバーサルレザーローションとは別物です。)

スパニッシュチェア

今回は以前に座面のベルトを補修した際の革もエイジングして馴染んできているということでしたので、同じこのヌメ革を使用するという事になりました。輪っか部分は柱との兼ね合いで寸法の制約や硬さの具合もあるので傷みやすい端部分の強度を高めておきます。

スパニッシュチェア

本当に部分補修でいいのだろうか・・・?

あとは縫製すれば部分補修が完成です・・・がこれで本当にいいのだろうか、と。お客様にはOKいただいているので問題はないのですが、継ぎ接ぎ感は否めないですし色の違いも目立ちますし何より補修箇所以外も全体的に革が痛んでいます。

スパニッシュチェア

革が厚いので表面にひび割れが生じていても今すぐどうにかなる状態ではないのですが・・。

スパニッシュチェア

ただ5年後、10年後に今回補修した箇所とは別の部分が痛んだ時にまた部分補修するとなると、今以上に継ぎ接ぎだらけになってしまいますし、かといってその時点で諦めるには今回かけた補修費用の元が取れているのかどうか判断に悩む結果になりそうな気がします。

スパニッシュチェア

ということで新しく背もたれを作り直すことに。

完成まじかの先ほどの画像をメールに添付して今後の懸念点と費用対効果と見栄えなどご説明し、新しく作り直す際のお見積もりをご案内した結果、部分補修費用よりは高くなってしまいますが結果的にはランニングコストも見栄えも良くなるならば、ということで1から作り直すことに。(もちろんこれまでの部分補修の作業費用は掛かりません)

「作り直し案件」はこの記事が長くなってしまったので「その2」でご紹介しています。

  • URLをコピーしました!
目次