旧モデルは革の巻き替えになります。
現在発売されている現行のTUMIモデルは、持ち手が付け根から一体型のレザーハンドルですが、旧モデルはナイロンベルトに革が巻かれている仕様になっています。
現行モデルでは持ち手は付け根からそっくり交換となりますが、旧モデルについては巻かれている革のみの交換となります。これは当店だけ、というわけではなくて世界中のどのお店でも旧モデルの補修についてはそのようになっていると思います。
旧モデルのナイロンベルトが交換できない理由
旧モデルはなぜ土台のナイロンベルトから交換できなかというと、画像のように(矢印部分)本体の胴体にナイロンベルトが底まで通されて直接縫製されているのでこのナイロンベルトを交換する事ができないというわけです。できないというかこの仕様だからこそ、TUMIの鞄が重い荷物を入れても耐えられる理由になっています。
一般的なカバンでは持ち手は鞄の入り口付近のみに縫製や鋲で固定されていますが、その構造だと持ち手を固定している鞄の上部でのみ荷物の重さを支えることになります。
なので荷物がたくさん入ると持ち手が縫製されている付近が上に引き上げられ、そのほかの部分は荷物の重さで下げられ、持ち手付け根付近が上下に歪みます。(持ち手の付け根に荷物の重さが集中する)
TUMIの鞄は、荷物の重さを全体で支えている
これがTUMIのように底までベルトが通され、尚且つ胴体全体にベルトが縫製されていると、その荷物の重さは一般的な鞄のように持ち手の付け根のみで支持するのではなく、鞄全体で荷物を持ち上げるような構造になるので、持ち手付け根の縫製のみで支える構造とは違い、型崩れもし難く、付け根も壊れ難いというわけです。
他にもナイロンが何層にも重ねられていたり、内装の間仕切りに補強がされていたりスポンジが施されていたりと、これでもかという程に手間が掛けられ補強・保護されています。
旧モデルでも少し違う、古参モデルの存在。
TUMIのブリーフ鞄のシリーズの歴史について正確には把握していませんが、恐らく三角モデルの前がこのラウンドモデルだったのではないかと思います。このモデルは鞄の構造は同じですが巻かれている革の形状が違っています。
旧の前は何ていうのかわからないので、この記事では便宜上「古参モデル」ということにします。この古参モデルはラウンド以外でも付け根部分の形状が色々あるようです。
この古参モデルと旧モデルと微妙にナイロンベルトの種類も違っていますが、大きな違いは握る部分の仕様になります。古参モデルは二つ折りにされている握る部分の革が二つ折りの間に巻き込まれて処理されています。
三角モデル(旧モデル)は二つ折り部分が巻き込まれずにナイロンと端を揃えて処理されています。どちらの仕様が優れているのかというと、その善し悪しは握る人の癖もあるので一概には言えませんが三角モデルのように巻き込まずに端で揃えている仕様の方が、比較的に端の部分の革が傷み難いのではないかと思います。詳細は「旧モデル・ラウンド篇」を合わせてお読みください。
革の巻き替え
革の巻き替えなのでこんな感じで縫製されている革の部分をナイロンベルトから分解して取り除きます。革の裏面にグレーの薄いスポンジが見えますが、これが入っていたり入っていなかったり違う素材だったりと意外と世界的メーカーのTUMIなのに仕様がアバウトなのがアメリカンというところでしょうか。
ほとんどの方が片側の巻革が痛んでいる場合が多いです。恐らく鞄正面側の持ち手が傷みやすかった気がします、手に触れる面積が多いので。
古参モデルは二つ折り部分が巻き込まれるので革が広がっています。
オリジナルから型取りしているので交換後もオリジナルと遜色はないと思います、というかオリジナルはしばしば歪んでいたり縫製が乱れているので交換後の方がビシッと感はあると思います。そして革もオイルヌメ革を使用しているので通常の革より乾燥し難く、使うほどにエイジングをして手に馴染んできます。
パーツも革のみを貼り合わせているのではなく、部分部分で裏面に芯材を貼り合わせて補強も行なっています。
製品の段階ではフラットな状態のナイロンベルトに革をセットし縫製してから本体にセットできますが、修理の際はすでにナイロンの持ち手が鞄本体に両側を固定され、半円状の状態に革を巻きつけていくので必然的に内と外の関係で距離が異なるので、その辻褄の違いを革の伸びを利用して帳尻を合わせて貼り込みます。
縫製の際もすでに重い鞄本体が接続された状態で縫製していくので一苦労です。右手でミシンの車輪を回して(八方ミシンは電動ではなく手動で使っているので)左手で縫製箇所をずらしていくので左手の指先に鞄の重さがずっしりと・・・。何個も縫製していると3個目ぐらいでだいたい指が攣ります。
巻き替え完了。
革の色がグレーっぽく写っていますが色は黒色です。黒色と白色の品物の撮影は露出が難しいですね。それに店内は電球色のLEDなので外光と電球色が混じると青く映ったり黄色かったり色がブレてしまいががちです。
こちらは比較的ちゃんと黒く映っている三角モデル(本体のナイロンはネイビーモデル)。オリジナルと遜色なく仕上がっていると思いますがいかがでしょうか。ときどきお渡し後に「画像で見た通り綺麗な仕上がりです」とお客様に言われることがあります。
今の時代、画像が容易に編集できてしまうのでなかなかリアルな信用を得るのは難しいのかもしれないな、と思う今日この頃です・・・。
TUMIのお手入れについて
補修で使用した革は通常の革より乾燥し難いオイルヌメ革を使用していますが、定期的に保湿を行うことでより革の寿命が伸びます。革が乾燥してひび割れて痛んでからどうにかしようとする方が多いのですが、革は一旦劣化してしまうとその状態から挽回するというのは難しいです。
革製品は使い始めから、痛んでも痛んでいなくても定期的に保湿を行うことで色あせや擦り切れ要望に効果があります。人間の皮膚は新陳代謝で痛んだ皮膚は再生されますが、革は何もしなければ潤いが徐々に抜けていってしまいますので。尚、すでに痛んでいる場合でもこれから保湿を行うことでその状態を現状維持できますので諦めずお手入れを行なっていただければと思います。
当店で主にお手入れで使用しているサフィール社ユニバーサルレザーローションは、当店店頭でもAMAZON価格(1.760円税込)で販売していますし、小売されていないお試し品の50mlサイズのミニボトルも、770円(税込)で販売していますので、ご入用の方はお申し付け下さい。
この保湿クリームはもちろんTUMI以外でも靴やお財布、ソファーや衣類などの皮革製品全般に使用できる優秀なメンテナンスクリームになります(起毛革など使用できない素材もありますので詳しくは製品に記載の説明欄をご使用前にお読みください)