ニーハイブーツをロングブーツに丈詰めしてみる。Jimmy Choo 編

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Jimmy Chooのニーハイブーツの丈詰め。

丈詰め

海外ブランドものというのは欧米人の体格を基準に設定されていると思うので、このニーハイブーツも相当膝下が長くないとこのままでは履けないのだろうと思います。海外ブランドの鞄のストラップも、長さ調節ができる仕様であっても調節幅が日本人の体型には中途半端な場合があり短く詰めるご依頼も多々あります。

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ファスナー無しのJimmy Chooニーハイブーツ・クロコの型押し革です。今回のご依頼の丈詰め幅は8.0cmなので履いていて「ちょっと長いな」、というわけではなく新品状態でのご依頼なので購入時点で丈詰め前提だったのかなと思われます。

時々ですが購入前の段階で「このサイトのこのブーツ買おうと思うのですが丈詰めできますか?」というお問い合わせがあります。

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正直その問いに答えるのは嫌なのですが、嫌というのは画像だけでは分からない部分もありますし、現品を見て丈詰めが難しかった場合に(ご希望の位置では綺麗にできない場合など)、「丈詰め前提で購入したのに!できるって言ったじゃん!」と怒られるのが嫌なのです。なのでそういう場合は「できそうですが、できない可能性もあります」とお茶を濁させて頂いている次第であります。

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スパッとカットしているように見えますが円柱なのでそんなことはできません。回転させては切って回転させては切ってという感じでぐるっと。今回は8.0cmなので内側の帯革にもかからずカットできていますが、カットする深さが浅いと内側に帯革がある場合にはカット後に残る帯革のラインが平行ではなくなる場合があります。

下画像・帯革とは履き口付近で切り替わっている革の部分(ない靴もあります)、今回は黒革の部分。ブーツというのは組み立てるそれぞれの段階の工程で誤差が生じやすい靴種です。

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それは製甲(本体の革の組み立て)だったり釣り込みの段階だったりでちょっとづつ狂いがちです。なので内側の帯革が平行なラインにそもそもなっていない場合があります。その場合、丈詰めして帯革が少し残ると帯の幅が広い場合には気づきにくいのですが、2.0cmとかの幅だと幅が違うのが目視で分かりやすくなります。これもちゃんと事前にご説明しておかないと丈詰め作業自体が狂っていると思われてしまったりもします。

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そもそも狂っているブーツ

なかにはそもそもブーツの筒の高さ自体が結構違う場合もあったりしますし、すでに履いている靴の場合や足首部分にシワが入っている場合には、そのちょっとしたシワでも筒の(見た目の)高さは変わってしまうので、カットの際はこの皺で左は7.0mm低くなっているからとか、右足は初めから狂っているから5.0mmプラスして・・なんていうことでプラマイしていると収拾がつかなくなってしまいます。

それにハイヒールの靴の場合は靴自体が垂直に自立していなかったり左右で傾きが異なっている場合も多々あるので、それは実際に筒の高さが違うのか、または靴自体が傾いて左右で高さが違って見えているのか?といつまでも思考停止に陥りやすいので、詰める際は単純に上辺を基準に左右とも同じ長さをカットとしています。ちなみにカットは直線だけではなく元の形状に合わせたラインで詰めることはもちろん可能です。

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ブーツというのは上辺の1.0cmぐらいしか裏と表が接着されていない場合が多く(全面貼られている場合もありますが)カットした中間部分は裏表が分離しています。なので同様に1.0cm程度接着してからでないと断面を整えたり縫製ができません。

この際にしばしば筒の中間部分の裏革の周囲が短く設定されている場合があります。裏革の周囲が表革と丁度の設定だと(内外周の距離の違いはあります)、組み立ての段階で誤差が生じた際に裏革がたるみ、製品の内側に皺が寄るのを防ぐ為なのだろうと思います。

なのでカットした後で縁を接着する際には裏革を少し伸ばす感じで表革に合わせていかないと裏革の距離が足りなくなってしまいます。今回も5.0mmくらい裏革が短めでしたが手の感触を頼りに全体で5.0mmくらい裏革が伸びるようにちょっとづつ、ちょっとづつ均等に伸ばしながら貼り合わせていきました。

これも裏革を必要以上に伸ばしすぎると表革にテンションがかかってしまい寄り皺が生じてしまう場合もあるので注意が必要です(特に表革が柔らかい場合には適度な伸ばしでも)

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裏表の革を貼り合わせたら貼り合わせの断面を削ってツラ(断面が揃っている状態)になるように整えます。ツラにしたら革の断面の毛羽立ちを抑える処理を行い黒の塗装を行います。オリジナルの縁は折り込み仕様(革を1.0cm幅くらいで薄く漉いて5.0mm内側に折り倒す)でしたが製品になっている今の筒の状態からでは同じような加工はできませんが、断面は綺麗に整えているので見栄え的には遜色ないように仕上がります。(縁の使用についてはパイピング仕様に仕上げたりとアレンジは可能です)

縫製する際は左手は伸ばして靴底を持ってくるくる回しながら縫製しています。今回のようにファスナーもなく筒の革が硬い場合は筒の部分を折り畳めないので左手が伸び切った状態で、そして左腿でも靴を支えながらくるくると縫製している状態です。

丈詰め完成

完成の画像だけ載せても丈詰めした感が伝わらないのでやはり冒頭の左右で高さが違う状態の画像は必要ですね。画像でもわかると思いますがクロコの型押しの柄が左右で揃っていますしこのブーツはなかなか正確に作られていました。

筒の長さが長くなると左右で狂いがちなのですが、クロコ柄(斑)の対称性もあるので恐らくその点は念入りに製造指示があったのだと思います。ちなみにこれは型押し革ですが、逆に天然だと同じ柄(斑)は存在しないので左右で揃えるということ自体が天然の革の場合は無いわけですが。

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何が難しいって、華奢な婦人靴のハーフソールが難しい。

以前大手百貨店をメインに修理店を展開している企業の方とお話しした際に、なんの修理が難しいか?という会話で、その方はヒール交換が難しいと言っていたのですが、それはヒールの形状は靴ごとに角度も取り付け面積も違っているので物理的にぴったりのヒールを探すのが難しいという理由でした。

では私はという、一般的にはオールソールとかウェルト交換とか思われそうですが「婦人靴のハーフソール」と。これはどのレベルで仕上げるかにもよると思いますが、修理店によってはカッターでカットしただけとか、少し削っただけとかで断面がガタガタしている状態でお渡ししているお店もあるので一概には言えませんが、それなりに仕上げるとなると今回の靴のような場合は難しいというか集中力が必要です。

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今回の革底はそのソールの厚みは一二を争うぐらい薄い、コバ断面で1.0-1.5mmくらい。つま先先端(ウレタン)に限っては1.0mmも無いのでは・・・。恐らく革底中央部分はもう少し厚みはあるんでしょうが、今回のような華奢な婦人靴の場合は靴底の周囲を薄く漉いて、縁が若干反り上がるように本体に靴底を添わせて接着しています。

ただそこはJimmy Choo、擦り減り易いつま先部分はウレタンの摩耗に強い素材を埋め込んで優しさを少し見せています。これ、ウレタン素材でなければ一度履いただけでつま先は穴が開いてしまう可能性もありますので。

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ハーフソールを貼り付けて断面をぴったりに削る際は元の断面にグラインダーのガイドを当てて削るのですが、婦人靴の場合は見ての通り本体より奥にソールがあります(本体よりソールが小さいのでそもそも本体の革のつま先部分で地面を擦りがち)そして革底の断面も1.0-1.5mmとほぼ厚みが無いに等しいのでガイドがかかりません。

なのでガイドなしで目測と手の押し付ける感覚だけで削る訳なのですが、この瞬間が他のどの作業よりも集中力が必要です。削る際も断面の角度を斜めに倒して(仰角)削れば難しくはないのですが、それではソールの耐久性が低下してしまうので垂直になるように削ります。

ハーフソール貼り替えの際に他店ですでにコバの角度を斜めに削られてしまっていると、ハーフソールを貼り直した際もその角度に合わせて斜めに削るしかありませんし、製品の段階でコバを斜め仕上げてる靴も同様です。

紳士靴のコバの仕様で「ヤハズコバ」という仕様があります。コバ断面をくの字に加工しているのですが、この仕様にハーフソールやビンテージスチールを取り付ける際もコバの角度が斜め(仰角)になる為、取り付けたスチールなどの耐久性が低下する可能性があります。

今回はかなり際どい設定ですし何よりロングブーツ(元ニーハイブーツ)で筒部分がソールを削る際に回転するので持ち難く厄介です。なのでご依頼主さんには少し断面が整わないかもしれないとお伝えし、それでもやってくれと二つ返事を。ちなみに整わないと言っても断面がガタガタの修理店のようにはなりませんが、あくまでも私の中で仕上がりに納得がいかないかも知れないというレベルの話なのですが。

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使用したハーフソールは通常で使用しているものではなく少し柔軟なタイプ。靴底が反り上がっているので通常のソールではその素材の硬さで反発し(平に戻ろうとする力)添いきれない(後々剥がれの原因になる)可能性も考えられるので、vibramソールの柔軟なタイプを使用しました。

ハーフソールはつま先が命。

ハーフソールのコバ(断面)削り方も修理店によって様々と言いましたが、エッジ、バリの落とし方もそれぞれです。

修理店によっては角(エッジ)を必要以上に丸めてしまうお店もありますが、角を丸めるということは、わざわざ摩耗させているということなので結果的に保ち・耐久性が悪くなります。特に摩耗しやすいつま先部分については削った後のエッジのバリ取りはしなくてもいいぐらいと考えています。(履けば摩耗して取れるので)

なので当店の場合は特に摩耗し易いつま先先端についてはエッジのバリ(面取り)は、軽く取る程度で仕上げています。サイドや踏まず部分はあまり影響がないので適度にコバの角度に合わせて削っていますが、今回のような形状の場合はそもそも靴底の厚みが薄いので少しでも厚みを保たせて地面から本体を離した方が良いと考えるのでほとんど面取りはしていません。

と言っても比べてもあまり違いがないレベルのことなのかも知れません、ほぼ店主の自己満足とお考え頂いていいかなとも思います。

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ちなみにですがつま先がとんがればとんがるほど、歩行の際にはその一点で地面の圧力を受けるので、それだけ摩耗し易いということは靴をご購入の際に頭の片隅に少し置いていただいた方が良いかと思います。

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ヒールが無茶な靴とは?

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海外ブランドは特に無茶しがちなんですが、それは革底の薄さもさる事ながらこの靴はヒールの設定が無茶してる感じです。細いヒールって造形的にバランスが取れて本体のボリューム感とヒールのシュッとした感じ、これっていい感じですが構造的にはちょっと無茶なんですよね。

ヒールは基本的には中底面からヒール付け根に届くように太いねじが中央に一本、その周囲に釘が五角形に5本打ち込まれています。この靴のヒール形状の場合、本体との合わさり面積が狭いので恐らくネジ1本と打てれば釘2本程度で固定されているのではないかと予想されます。

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合わさり目の面積(体積)がそれなりにあるヒールであれば右のヒールのような感じでネジと釘が打ち込まれています。このヒールの無茶な点は青矢印部分、この部分は「ベロ」言われますがこのベロの部分が華奢というところです。この部分がしっかりしているかどうかでヒールが折れるか折れないか(外れるかどうか)のポイントになりますがとても華奢です。

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ヒールの軸自体が細くてもベロの部分がそれに見合った距離と厚みがあれば耐えられます。例えばDIYで壁に棚をつける際にL字金具を使いますが、棚の奥行きに合わせてその長さを決めると思いますが、棚の奥行きに対して金具が短ければ、そこへ物を置くと重さに耐えきれない場合は棚が前方に傾いてしまうのと同じで、軸の長さに対してこのベロが短いと緑矢印方向へ瞬間的に負荷がかかると、このベロの長さでは支えきれない可能性があります。

ちなみにヒールが太くベロがない寸胴という形状のヒールもありますが、この場合は合わさり面が広いのでネジと釘が必要な本数打ち込める為、ベロがなくてもしっかりと固定されていますが、寸胴ヒールでも細い寸胴は同様に倒れやすいです。

標準的なベロのあるヒールでもヒールのゴム交換で持ち込まれる靴を見ると、革で巻かれているのでぱっと見は分かり難いのですが、中のプラスチックが耐えきれずにベロの薄くなった部分に亀裂が入ったり折れてしまっている靴がちらほらあったりもします。電車のホームだったり車内でスマホをいじりながら無意識なのかヒールを軸に床で靴をグリグリしている女性を見ると、その動きはヒールを外そうとする動きだけど・・と独り言ちたりもしています。

通常のヒールであれば折れたり外れたりした際は再固定や交換が可能ですが、この靴はファスナーのないロングブーツ。まずネジや釘を外すことはできませんし外せたとしても打つことができません。メーカーでは半自動で釘を打ち込む機械があるのですが、靴をセットして釘を穴に入れてガチャンとやると深い場所であっても正確に打ち込めますが、どうなんでしょうか大手の修理店では自前でそのマシーンを持っているのでしょうか?

ちなみに私が通った靴学校にはその釘打ち込みマシーンがあったので一度使ったことはありますが、確かパンプス製作の授業の際に手本で先生が釘をセットしてがしゃんと打ち込むと・・・、釘がヒールを貫通して側面から飛び出てしまっていましたね。

釘の長さもどのくらいの長さがいけるのか、同じ形状のサンプルのヒールで試せば貫通リスクは低減できますが、修理では現品しかないので(再固定の場合は特に)それはできません。なので修理の際はまずは固定されているネジや釘を取り出すので、その長さを参考にすれば貫通リスクは低減するのですが、ただ元々の釘の設定がギリギリの長さだった際には(ギリギリかどうかは知る由もないのですが)打ち込む角度を間違えると、元と同じ長さであっても貫通させてしまう可能性があります。

貫通を恐れて短いネジや釘を用いるとそれだけ後でヒールが外れてしまう可能性が高まり、その方が怪我のリスクがあるので攻めの姿勢で打ち込むしかないのですが。(同じ長さでもネジ径をを太くすると食いつきが良くなるのでそういう対処方法もあります)

ただし今回のヒールのような無茶な形状だったり再固定の際に強度が維持できないと思われるヒールについてはヒール交換や再固定はお断りしています。

一応この内容についてはあらかたご依頼主さんにはお伝えし、走ったり階段を駆け下りたりといったような極端に負荷が掛かる動きはされない方がいいと思いますよ、と。
でも無意識に、ヒールグリグリしてしまうのだろうな・・と思う今日この頃です。

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