革を信頼し過ぎるルイヴィトン。
今回はLOUIS VITTONでよくある、ショルダーストラップの付け根の裂け(本体側)補修です。モデルはリポーターPMでしょうか。
一般的な鞄では普通はこのような負荷がかかる部位には革だけではなく伸び留めとしてナイロンなどを挟み込んで補強してあります。
革はどうしても繊維素材なので負荷がかかるとどうしても伸びていってしまいます。ただ何故だかルイヴィトンの場合はヌメ革を信頼し過ぎなのか何も挟まず革だけで勝負をしていることが多いです。
それと革は乾燥すると人間の皮膚と同じように柔軟性が損なわれ擦り切れやすくなります。また今回の裂けている革の断面や裏面(床面)を見ると繊維がモサついているので、もともとあまり革の質が良くなかったかもしれません。
今回は片側の付け根の裂けでしたが反対側はすでに補修をされていました・・・といってもなんだか怪しい補修ですが、伺ってみると友人が治してくれたということでした。
友人には申し訳ないですがなんだか残念な感じです。
とういうことでこちらも合わせて交換ということに。知り合いにお願いして上手くいけばいいのですが、仕上がりがちょっと・・という時には文句も言いにくいですし、やり直してとは言えないですし、やり直してもらってもという事になりますので、大切なものは然るべきところにお願いした方が良いと思います。
私もこういう仕事をしていると知り合いに修理を頼まれることがありますが、その時にはちょっとだけいつもより慎重になったりもします。
ヌメ革の歳の取り方
ヌメ革の場合は経年によりクロム鞣しの革と違い色が変化しています。特にルイヴィトンで使用されているような素揚げに近い(色が染色されていない)革の場合はその時間の経過によって、また使用環境によって色がまちまちです。
ときどきこのヌメ革のエイジング(色が濃くなった)部分を綺麗にしてほしいというご相談があります。ヌメ革のエイジングは例えれば日焼けのようなものなので、人間であれば夏から冬の頃になれば新陳代謝で皮膚が入れ替わりその人の元の肌の色に変わりますが、革の場合は新陳代謝は行われないですし、逆に経年ごとに紫外線に当たり続けているのでどんどん色が濃くなっていきます。
なのでエイジングは汚れではなく素材自体の変化なので、色を明るくしたり綺麗にしたり補色することはできません。
付け根パーツを剥がして裏面にしたところは日に当たっていないので元々の素材の色で残っています。ストラップの付け根の革は常に日に晒されていた部分なので日焼けして色が濃くなっています。
同じヌメ革で同じ期間を過ごしても日に当たるか当たらないかでこれぐらい色の違いが生じます。
ヌメ革の補修の際に使用する革は、どのくらいのエイジングの色に合わせるか判断が必要です。元のベージュの色味に合わせるのか、またはすでにエイジングしている周囲の革の色に合わせるのか。
左は栃木レザー社のヌメ革です。栃木レザー社のヌメ革は海外のハイブランドでも使用されているということですが名前は明かされていないのですがどこなんでしょうかね。
同じヌメ革でも鞣す際に使われるタンニンの種類により、エイジングしていくと赤茶系になったり黄茶系になったりとありますが、使い込まれたルイヴィトンを見ていると使われる環境によってもエイジングの色味というのは違っているように感じます。
ヌメ革の製品を補修する際には基本的にはヌメ革を使用します。ヌメ革の製品に例えばその時点では色が似ているからといって顔料たっぷりのクロム鞣しの革でパーツを製作して取り付けてしまうと、その風合いの違いから取り付けた時点で違和感がある場合もありますし、その後経年していくと周囲のヌメ革はエイジングし色が変化しているのに、顔料仕上げの革の表面はあまり変化せず5年前のまま、という感じになってしまいます。
なので基本的にはヌメ革の製品にはヌメ革を用いて補修を行い一緒に歳をとっていた方がいいと思います。
今回の補修で使用する革は栃木レザー社のタンニン鞣しのヌメ革でオイルプルアップのブラウンカラーを用います。
色味は周囲のエイジングした革に合わせた色を選択しました。この革は通常の革よりオイルを含んでいるので乾燥し難く丈夫な革です。作成した付け根のパーツは間にナイロンを挟み込んで革を貼り合わせています。
この革で靴を作って7年ぐらい履いていますが、その間に何度も雨でびしょびしょになってしまいましたが雨シミも発生せず乾燥もせずいい具合にエイジングして育っています。
といっても履き始めから定期的に保湿を行いお手入れはもちろんしてですが。よく見かけるのが革がカリカリに乾燥してひび割れが生じてからなんとかしようとする方々。
革は痛んでも痛んでいなくても使い始めから定期的に保湿を行う事で最終的な寿命がかなり伸びます。
先ほども言いましたが、革は皮膚と違い自ら新陳代謝は行えないので、こちらから保湿をしてあげないと油分がどんどん失われていく一方ですので。
付け根パーツは縫製と合わせて鋲で固定されていましたが、このLOUIS VUITTONのロゴ入りの鋲は固定する時にカシメて(潰して)いるので再利用はできません。
パーツ交換にはロゴマークのない鋲を使用する事になります。この鋲もルイヴィトンの場合はいつまでもギラギラの金メッキというよりは、真鍮がエイジングして古びた感じの色味になるような仕上げになっています(革のエイジング具合に合うようになっているのか?)
また今回持ち込まれた金具の状態もそのようにエイジングしているので、金メッキギラギラの鋲ではなく、革とともにエイジングしていく真鍮の鋲を使用し固定する事にしました。
道具貧乏
修理の場合というのはある意味オリジナルの鞄を作る時より作業が難しくなっている場合が多々あります。今回の付け根のパーツの縫製もすでに鞄に仕上がった箱状になっている状態からパーツを縫製しなければなりません。
この状態だとミシンで縫い進める方向は限られているので縫える所まで縫ってあとはバックでひと穴ずつ針を落としていく感じです。反対側のパーツはバックから縫い始め後半は前進して縫えます。
縫製が終われば次に鋲を打ち込みます。打ち込むときはハンドプレスを使って確実に固定していきます。
以前は手持ちの打ち具でカシメていましたが、打ちにくい場所だったり鞄が動いて安定しない時にはビスが垂直に打ち込めずやり直す事もあるので、あまり登場する回数は多くはないので使用頻度と導入コストが釣り合いませんがハンドプレスと駒を使用しています。
駒というのはプレス部分の上下に取り付けるもので、固定する鋲やボタンの大きさに合わせて種類がたくさんあります。
こんな感じでちょっとした作業を行うにも道具がどんどん増えていってしまうので道具貧乏という感じです。いつになったらこの道具のもとがとれるのでしょうか・・・。
付け根パーツの完成と気がかりな友人。
ストラップ側の付け根の革は乾燥しているので画像だと色褪せて色が明るめですが(このあと保湿をし色が濃くなっています)、今回作成したパーツは本体側のパイピングや他の部分に使用されている革と大体同じくらいの濃さになっています。
今後は周囲の革と共にエイジングして育っていってくれると思います。
ご依頼主さんの友人が治された付け根側も交換しましたが、これをその友人が見た時にどう思われるのだろうかと。
「あっ交換されている、やっぱりあれじゃダメだったか・・」と、落ち込まないだろうかと少し心配になる今日この頃・・・。