サイズが合っていても合わない靴 ドクターマーチン篇

ドクターマーチン
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追いソール

靴のサイズが合わない場合はいくつか原因となる事がありますが、今回の依頼品だと見て分かる通りソールが・・・。これだけソールが分厚ければ仮にサイズがぴったり合っていても合わないと感じると思います。

そもそもソールが曲がらない。歩いて足が曲がってもソールが曲がらないのでかかとがパカパカになりそうです。しかし今回の靴は甲の部分にゴムバンドが入っているのでそれで何とか靴と足が固定されているようです。

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追いソール

ソールは通常のドクターマーチンのソールにもう一層ソールを追加(追いソール)しています。相変わらずロックです。

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センターファスナーが付いていてそこで甲を抑えているのかと思いきや、ベロの部分に中底面からゴムバンドが繋がっていて甲を抑えている感じです。なので履いた状態でもベロとファスナーの間には指が入るぐらいの空間ができていました。

踵はパカパカしない?

初回ご来店の際は指周りの横幅がきついということでその部分の拡張希望ということでしたが、お話を伺っていると実は踵が擦れると。ソールが曲がらないのでパカパカして踵が擦れてしまうのだろうと思いましたが、踵はパカパカしないと。

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しかし指周りを広げてしまうと歩行の際に足が前に滑り、かかと側に隙間が空いて今度こそパカパカしてしまうのでは?と。まだあまり履いていない状態で革も馴染んでいないので様子を見られた方がいいのでは?ということで初回ご来店の際はそのままご帰宅に。

1週間後・・・。

その後数回履いてみたが、踵はパカパカしないけど踵が靴擦れするのでやっぱり伸ばして欲しいとメールが。

その場合考えられるのが踵の骨が出ていたり、昔の怪我で皮膚が凸になっている場合などには、サイズの問題ではなく物理的にどうしても擦れてしまうのですが、それは初回ご来店の際に確認済み。

ご依頼主さんはドクターマーチン愛好家の方なので何足も履かれていて、今回の追いソール仕様の靴も他に履いているけど他の靴は同じように踵が擦れることはないんですと・・・。

靴の踵の横幅が狭いというわけでもなく(どちらかというと広め)、裏革の縫製箇所が凸凹しているわけでもないので・・・謎です。

伸びない所

しばしば「靴を縦方向に伸ばして欲しいのですけど」というお問い合わせがありますが、靴は縦方向には伸ばす事ができません。まずソールが付いていますし、つま先と踵には形状が崩れないように硬い芯材が入り革を固めています、ピンクのところ。(入っていない靴もあります)

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芯材(カウンター)

革は部位によって繊維が伸びる方向が決まっているので、靴のパーツ毎に裁断する際には縦方向に伸びない繊維の方向で裁断します。ただ既製品の場合は一頭から無駄なくパーツを裁断する為に、伸び方向は気にせずテトリスのように隙間なくパーツを配置し裁断している場合もあります。

しかしそれはけしからん!とも言えません。伸び方向を気にして一頭から10足分取れていたのが5足分しか取れなければ靴の値段が二倍になってしまいます。実用の範囲内でどこを落としどころにするかなのだと思います。

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先芯

二度目のご来店の際には、踵がパカパカしてもいいのでとりあえず指周りを広がてくださいという事に。どちらかというと踵がパカパカした方が良さそうですと。踵も広げてくださいという事でしたが、先述の通り踵は芯材で固められているので伸ばすことはできないんですと。

拡張中

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絶賛!拡張中。

これはストレッチャーという器具です。中に靴の形をした型を入れて上部のハンドルを回していくと型が靴の中で広がり革を押し広げていきます。この型も紳士用の太いのと細いの、婦人用のヒール用や小さいのなどなどいくつか種類があります。

ちなみにこの機械に掛けたからといってすぐに革が伸びる訳ではありません。だいたい1週間ぐらい掛けてみて、その間にハンドルをじわじわ回して様子を見ます。今回の靴はガラス加工という表面が硬い革なのでしばらく掛かりそうです。

ストレッチャー

小指の横とか骨の部分とか伸ばしたい位置に凸パーツをセットします。ただ器具とセットになっている凸パーツだとイマイチ場所が合わないので、オリジナルで凸パーツを作成したり、それでも靴に合わない場合は型自体を盛って修正して使う場合もあります。

伸ばし具合は塩梅です

「ワンサイズ大きくして欲しい」とか「5.0mm広げてください」とか寸法を指定されることがありますが、それは無理です。

指周りとか小指の外側とかそういうアバウトな感じの位置指定で、あとは器具にしばらく掛けてみてご来店の際に履いていただいて、もう少し広げたほうがよければ(伸びる余地があれば)また器具に掛けるという塩梅です。ご希望のサイズ感に必ず伸ばせる訳ではありません。

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私の考えとしては半日でも痛くて履いていられないような状態の場合に(そもそもその状態の靴を購入するのが・・ですが)、少し革が伸びることでとりあえず一日履ける状態にすることが目的という感じです。

あとは自らの荷重で革と靴底を徐々に自分の足に馴染ませた方がいいのではと思っています。器具で短期間に強い負荷をかけてしまうと、デザインによっては縫製箇所にダメージが入ってしまう可能性もあるので、とりあえず履ける状態に、というぐらいでご依頼いただければと思います。

ちなみにガラス加工の革って。

良いところ

  • 雨に強い
  • 磨くと簡単に光沢が出る

悪いところ

  • ウレタンの膜が劣化するとベタつく、ひび割れる
  • 履き皺が白っぽくなる
  • 擦れると溶けた跡が残る
  • 革が硬い

表面がツルツルしているのはウレタン塗装されていて透明な膜ができているからです。なので撥水しますし磨くと簡単に光沢が出ます。デメリットとしてはウレタン塗装が劣化してくるとベタつくことがあり、また屈曲部分に入った履き皺が白っぽくなります。

これはウレタンの膜が劣化したり皺が寄って生じている現象です。これは治せません。またウレタンの膜があるので靴クリームや保湿クリームは浸透しません。

ただ屈曲部分の履き皺では膜が劣化すると良いのか悪いのか、その膜のひび割れた部分からは革の層に保湿成分が浸透する場合もあるのでお手入れした方がいいです。それとぶつけて強く擦られるとその摩擦熱でウレタンの膜が溶けたようになり、擦れた跡ができて取れません。

挙げてみるとあまりいいところがないように聞こえますが、エナメルレザー同様にそういう光沢のある表情の革として楽しんでいただければと思います。

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