辻褄合わせに時間がかかる
こちらのご依頼主の方は筒部分がだぶついてズボンのシルエットが綺麗にでないので、という理由でこれまで何度か?丈詰めでご依頼いただいていますが、今回のブーツも御多分に洩れず詰めることに。
前回のご依頼は丈詰めではなく筒詰め(細くする)だったので大変だった記憶がありますが、今回は裏革もファスナーもないので比較的シンプルな補修となります。
上から二個目の鳩目のところまで詰めます。どの靴でも大体そうなのですが左右で寸法が異なっています。シャフト(筒)の高さであったり周囲であったりと。丈詰めで一番時間がかかるのは何か?それはこの左右の誤差の辻褄を合わせることです。
新品の段階でもそうですが既に履いている場合は履きジワが入るので誤差なのかシワの影響なのか、はて?・・・と。今回のようなワーク系、クラフト系な感じの靴の場合は左右の誤差は顕著だったりします。
この靴の場合はこんな感じでそのまま置くと高さが違っています。これはシワの影響もあると思いますが左右とも均等に履き口から同じ数値を図ると高さが違うのでやはり狂っています。左右でなくても片足の中でも外側と内側で同じ高さで線を繋げてくると、どの靴も大概きれいに繋がることはありません。今回も3から4.0ミリずれています。
誤差は誤差のままで
筒部分の誤差は裁断のズレだったり中央部分で縫い合わせる時の歪みなんだと思います。自然に繋がるようにラインを調整します。このようなラインの修正は行いますが左右の筒の高さの誤差の調整は基本的に行いません。
今回の靴に限らず置いた状態で筒の高さだけをみると大抵は高さが違って見えるのですが、実際に筒だけの全長を図ると同じ場合があります。誤差は筒の高さだけの問題ではなく靴にはソールもヒールも付いています。
婦人靴であればバランスの悪い細いヒールの為、自然とロングブーツ自体が左右に傾いていますし、紳士靴の場合はヒールの積み上げだったりコルクの入れ具合だったりで靴底部分の厚みも左右で違っています。
そういったそれぞれの誤差が最終的に目に見える筒の高さの誤差に現れているだけの場合もあるので、筒だけを基準に修正してしまうと、それは合っているようで返って誤差を拡大させてしまっている、なんて事にもなりかねないので明らかにおかしいという場合でない限り誤差は誤差のままで丈詰めを行います(左右とも同じ長さをカットする)
ちなみに今回は元と同じく直線でカットしていますが、カットのラインは直線でなくても可能です。通常は元の履き口のラインに合わせて曲線や直線で均等にカットしていきます。
丈の高さに合わせてベロもカッティング。ないとは思いますがベロだけは残してくれ、というご希望も可能です。
オリジナルにあった履き口のパイピングだったりループ部分は必要ないと言うことなので、丈詰め後には再現していませんがご希望により再現は可能です。
トップラインを17ミシンで縫製していきます。ステッチもシングルでもダブルでも可能ですが今回はシンプルにシングルステッチに。
オリジナルでは履き口の補強はパイピングで処理されていました。丈詰めの際にパイピングは省略ということなのでそのままだと履き口は革一枚になってしまいます。革がオイル多めのオイルレザーだったので柔らかく、この状態で履いていくと、きっと履き口がヨレヨレになってしまうので裏の補強革だけは追加させていただきました。
丈詰め完成
カットした断面はコバを削って整え、革のバサつきを抑える処理を行いました。コバの塗装は行われていないので同じく塗装せず磨いて仕上げました。
履き口のエンド部分は直角に落としてありますがこの部分もRにするなど詳細は変更可能です。今回行いませんでしたが、パイピングする場合に元の同色ではなくダークブラウンとかブラックにするなどのカスタムも面白いと思います。
ただそれらのデティールの有無で補修費用は異なるので、今回のご依頼主の方のようにズボンで見えなくなるので省略し補修費用を抑えることもできます。
今回のようなズボンのシルエット的なこともありますが、穴数が多い編み上げの靴は脱ぎ履きが大変なので、それが面倒で穴数を減らす為に丈詰めされる方が多いです。
ただ編み上げの靴はくるぶしも固定できるので靴としてのフィット感はとても良いです。店主の感想としては、内くるぶしが上まで隠れるぐらいの丈が、フィット感もよく脱ぎ履きの面倒さも許容できる範囲ではないかと思います。編み上げが面倒であれば、脱ぎ履きが楽なチャッカブーツもくるぶしが固定できるのでオススメです。