分解
トートバックのような構造であれば内装と外装が鞄の入口の部分で縫製されているだけなので、その部分の縫製を解いて内装を取り出し、新しい内装を入れて再び縫製するという手順で内装交換を行うことができます。
今回のような構造の場合は一から組み立てるところまで戻らないと内装を交換することができません。
交換の原因は手前のポケットの内装生地の擦り切れ。若干生地が薄いような印象なので交換の際はもう少し厚手の丈夫な生地で行います。
修理してからこの記事を書くまで時間が空いてしまったので記憶が定かではありませんが、本体の内装にも同じ生地が使われているので今後の事も踏まえて本体側の内装も合わせて交換になっています。
例えば今回手前のポケットの内装だけ交換し、後に本体の内装も擦り切れて交換が必要になった場合には、これから行う分解と組み立てを構造上、、ほぼもう一度同じように行う必要が生じます。薄手の生地ということもあるので、今回まとめて交換しておいた方が安心です。
底部分は縫い目が外側に見えないので内縫いになっています。外装だけ縫われていればいいのですが・・・。
パイピング処理されている場合
底部分は外装の革と内装生地をまとめてパイピングで縫いまとめられていました。パイピングされている場合は正面や背面のパーツがそれぞれ別々に組み立てられ、最終的にパイピングでまとめて縫いあげられているので内装を交換する際には全て分解する必要があります。
とりあえずパイピングを外していきます。
パイピングの縫製を解くと新たに縫い目が出てきます。パイピングの縫製1回で全てまとめて縫われているということは稀で、ほとんどの場合は外装や内装やその途中での仮縫いなどで複数回縫製されています。今回はパイピングを含めると5回縫われていました。
それぞれの縫い目が同じところを縫い止めているのではなく、組み立てる際にずれないように途中途中の段階でパーツごとに縫い留められています。
今回の縫製はこんな感じかと
状態によっては分解しなくて済む縫い目もありますが今回は全て分解しないとダメでした。
底が外れました。
カットした糸くずをちまちま毛抜きで抜いていきます。
内装交換の際は本体側のファスナー付きの内ポケットももちろん作成します。
めちゃくちゃ縫い付けられています。この鞄で一番何重にも革が重なっている部分です。これどこか分かりますか?
ストラップのパーツが縫い留められていました。
外装の縫い目、これ飾りかと思ったら手前のポケットの内袋を一緒に本体に縫製して袋状にする縫い目になっていました。
なのでこの縫い目も解かないと手前のポケットの内装生地が外せません・・・。何重構造やねんっていう感じです。
展開
諸々分解してようやくアジの開き状態になりました。
身の部分、ではなく革の面がこちら。革が絞り加工されていてヨレヨレと不定形なので内装の型を採るのが大変そうです。
次に入口の部分の縫製を解いていきます。
黄色のテープの書き込みはファスナーの向きやポケットの取り付け側など組み立てる時の目印です。分解してバラバラになるので、組み立て時に左右間違えたりこれは正面背面どっちだっけ?となるとまずいので。
内装生地がヨレヨレ、正確な型が採れなそうです。
ようやく外装もバラバラになりました。
組み立て
ヨレヨレの元の内装生地を元に型紙を起こして新しい生地を裁断していきます。
まずはロゴマークを移植。
次に内ポケットの作成。
続いて正面の外装のポケットをファスナーのところで縫製。
外装のポケットは上側(右側)が内縫いで下側(左側)が外縫いになっています。
内装の生地側はどちらも内縫いになり縫い目が出ない仕様になっていたので、オリジナルと同じように仕上げていきます。
これで外側のポケットの準備ができました。組み立てる時には分解した時と逆の手順を辿っていきます。
外装にある縫い目の穴に一つずつ針を落として縫っていきます。この縫い目で外側のポケットのサイド部分が閉じられます。
続いてタグや内ポケットなどを取り付けて下準備しておいた本体の内装をファスナー部分で縫い留めていきます。
元の縫い目に針を落として縫っていきます。
本体の内装生地はこの段階までは外装と別パーツで組み立てていきます。ちょっと変わった構造になっていました。
ストラップのパーツを固定します。
金具は内装をひっくり返した時に外側に出てくるので、この状態では内側からパーツを差し込んで縫製します。この部分は何重にも革が重なっているので分厚くて硬いのでミシンではなく手縫いにて確実に固定します。
底のパーツは外装と内装を縫製してすでに仮固定してあるのでそれを本体と組み合わせて縫製し固定。その後、最後にパイピングで縁取りすれば完成となります。
内装交換完了
内装交換は複数に部屋が分かれているとそれだけ交換作業に手間がかかるので費用が高くなります。部屋というのは今回でいうと本体の大きな一つと、正面外側にある大きなポケットが一つで合計二つになります。内装のポケットは基本仕様になります。
内装に適した素材は?
紳士鞄だと余り見かけませんが、婦人鞄だと内装に合皮素材がよく使われています。合皮素材は必ず劣化するので使わない方がいいのですがメーカーでは暗黙の了解で使いがちです。購入する際には素材表記を確認するなどしてお気をつけください。
内装に革素材を使う場合だと費用も高くなりそして重量も増加してしまいます。保管環境によってはカビの発生もあるので内装素材に革を使うのは高級感はでますがあまりお勧めできません。
厚手のしっかりしたナイロン素材や丈夫な帆布素材などが内装素材には適しているかと思います。当店では特にご希望がなければ倉敷帆布の目が詰まった生地を使用しています(色も選択できます)
分解した縫製も全て元通りに縫い直してあります。
革のお手入れには?
最後に仕上げでレザーローション(保湿クリーム)で乾燥している革に潤いを与えてブラッシングし完成となります。
保湿クリームですがミンクオイルは使わないでください。ミンクオイルは動物性油脂なので高温多湿の日本の気候ではカビ菌の餌になりがちです。また油分が強いので適量を誤ると革を痛めてしまいます。
オススメの保湿クリーム
こちらのサフィール社(フランス)のユニバーサルレザーローションは、ホホバオイル(植物油)とビーズワックス(ミツバチが巣を作る時に精製する蝋)からできているので、石油系の嫌なニオイもなく扱いやすい保湿クリームです。
革製品は痛んでからお手入れをしても現状維持がいいところです。使い始めから定期的に保湿を行うことで、5年後・10年後の状態に影響を及ぼします。
お手入れは1日にして成らず、です。