お尻から鞄を保護する。 FILSONの角擦れ篇

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方針転換して分解することに。

トートバックの底角だと地面に置いたり物や人と擦れてしまいますが、ショルダーバックの場合は背面部分が常にお尻と擦れるので稀に生地がほつれてしまう場合もあるようです。恐らく位置的にデニムのポケット部分などの生地の凹凸や補強のリベットで擦れてしまっているのではないかと。

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擦れている部分の補強は当店定番のロンシャンの角擦れ補修のように革のパーツで角を覆ってしまう方法で、ということでしたのでそのように補修をはじめてみましたが・・。この鞄は内装が別になっている仕様ではなく外装と内装の生地がまとめて内側で縁取り処理されています。

使われている厚めの生地は1号帆布ぐらいでしょうか、それが二枚重ね合わさり正面と底面と縁取りの生地を合わせると計6枚重なっているので縁取りの厚みが10mmぐらいあります。

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革の角のパーツを外側に取り付けてこの10mmの段差ごとまとめて縫製することになるので、その部分の革は引っ張られ革の表面にもかなり凹凸が生じてしまいます。それでもお客様は問題ないということでしたが実際に作業を始めてみると、どうだろうか・・・。そもそも縫えるのだろうか?という疑問も。ミシンの抑えが乗り越えていく段差が高すぎるとミシンの糸調子も狂ってしまう可能性が高しです。

結局縫えなくて分解すことになると二度手間なので、ならば始めから分解して補修を行うことに方針転換。分解する方法となると手間がかなり違ってくるので補修費用は高くなるのですが、今回は私の査定の甘さなのでサービスとなります。

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まずは縁取りを分解。そうするとステッチが二列あります。縁取りがされている場合は大抵が縁取り前に本体だけをまとめて縫製し固定してから縁取っています。今回は本体自体がそれぞれの面で生地が二枚ずつ重なっているのでその二枚ずつを固定し、それをまた正面と側面という感じで本体を組み立てる縫製が行われています。今回の角擦れで補強する革のパーツはその二枚重なっている生地の間に差し込んでいきますので二枚固定している縫い目も解いていきます。ってどこのこと?という感じだと思いますが私の文章能力では・・画像を見て判断をしていただければと。このあともう一回分解しますが。

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角擦れ補修の際に今回のような本体を分解して取り付ける方法は基本的には行なっていません。特に布帛(生地)やナイロン素材では。それらの素材でもほつれにくいものもありますが画像のように作業中にどんどん端からほつれていってしまいます。今回の生地は極厚で丈夫なのでなんとかなりますが薄い生地の場合はほつれていくと本来縫製する位置までほつれが広がってしまったりと収拾がつかなくなってしまう場合もあるので。

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角擦れ補強パーツ作成

補強パーツのサイズ感を確認しています。内側に縫い込まれるのが7.0mm程度と想定してどの程度表側に見えてくるのか確認。

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サイズが決まったら革を裁断します。ヌメ革のダークブラウン。オリジナルの革はかなりエイジングし色が濃くなっているので補修箇所の革の方が明るめですが、ヌメ革なのでエイジングをして馴染んでいってくれると思います。内側に縫い込まれる端部分は厚みは必要ないですし何枚も重なる部分なので革を漉いて薄く加工しておきます。表側の革の断面はダークブラウンに染色しておきます。

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何度も何度も縫い重ね・・・。

補強パーツを本体にセットしカタカタカタ・・・。

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表側の生地だけに革のパーツを縫い付けるので縫製する際は余計な生地を巻き込んで縫ってしまわないように何度も裏側を確認してカタカタカタ・・・。縫い付けたら表裏の生地を二枚重ね合わせ、縁取りで隠れる部分の端も縫っておきます。それぞれをその都度固定しておかないと最終的にこの部分は生地4枚、革2枚、縁取り2枚の合計8枚をまとめて縫製するので、その時にどこかがズレてしまうとかなり面倒なことになるので段階ごとに縫って仮固定しておきます。

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らしく完成。

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どうでしょうか、らしく仕上がったと思うのですが。今回は分解して革を差し込んでいるので製品が作られる工程通りに一度戻って組み立て直しているので、らしくなるのは当たり前といえば当たり前なのですが。

下の画像は分解せずに外装にパーツを被せて縫製した定番のロンシャン角擦れ補修。こちらは本体の縫い合わさり目に革のパーツを合わせているのでこの方法でも後付け感はあまり感じないと思います。ただロンシャンで使われているような薄手のナイロン素材の場合は内側の縁取りは縫製の際にペタッと片側に倒せて何事も無かったかのように平らに縫製できるのですが、今回のFILSONの鞄の場合は縁取りがゴリっと10mmほど厚みも高さもあるので、覆って補修するこの方法ではボコッと段差がついてしまい変な感じになってしまったと思います。

ロンシャン

そして下手したら段差の部分でうまくミシンで縫えずに何度も何度もやり直し、かえって時間が余計に掛かってしまい尚且つ見栄えもイマイチだった可能性もあるので、遠回りかなと思いましたが分解してらしく仕上がり、時間も節約できているのかもしれないので結果オーライという感じでしょうか。

修理の場合は基本的にワンチャンスなのでチャレンジというのはなかなかできないです。チャレンジした方法で失敗した場合には、やり直す際に縫い穴が残ってしまったり接着剤がはみ出てしまったりと他の方法へ変更する場合に影響が生じてしまう場合もあるので。なのでベストではないかもしれないが、「今はこれがベター」という選択肢をチョイスする場面もあります。

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