カンペール修繕事例・紳士ヒール系

CAMPER
紳士ヒール系・補修方法と修繕事例

カンペールの紳士靴のヒールモデルはステッチダウン製法で作られている場合が多いのですが、他のステッチダウン製法のモデルとは異なり、底縫いが行われているのですが革底まで貫通して縫われていません。底面に縫い目があってもその縫い目は本体とは縫われておらず飾りだったりします。

革底を接着だけで固定するというのはソール剥がれのリスクが高くなります。革は繊維素材なので雨の日には路上の水分を毛細管現象でどんどん吸い上げてしまいます。吸い上げた水分は革底と本体の接着剤を劣化させソールの剥がれを促進させます。

革底を剥がしてみると剥がれます、縫われていないので。接着面を見てみると本体側は本体で縫い付けられ、革底に縫い目があってもそれは飾りであったり革底とハーフソールを縫い付けているだけで本体とは縫われていません。これはなんでこのようにしているかというと、革底と本体を貫通して縫製すると、徐々に底面の縫い目は擦り切れていきます。ステッチダウン製法の場合はこの縫い目で本体と革底を固定しているので糸が擦り切れてしまうと、ソールが剥がれるだけではなく本体も抜け殻のように分離してしまいます。

本体と革底が別々の縫い目で縫製されているウェルテッド製法であれば革底の縫い目が擦り切れても革底が剥がれるだけなのですが、ステッチダウン製法の場合は靴自体が分解してしまう為、このように本体は本体、ソールはソールで縫製されそれぞれを接着しているのだと思われます。

ちなみにカンペールのその他のステッチダウン製法モデルの靴は、ラバーやウレタンソールなのでソールの製造段階で底縫い部分が地面に擦れ難いように設計されているのでちゃんと本体とソールが貫通して縫製されています。（ただそれでも摩耗が進むと底縫いも擦り切れてしまいますが）

カンペールのヒール系モデルの特徴としてしばしばヒールも外れています。通常、ヒールがブロック状の場合は中底面とヒール面から数本の釘を打ち込んで固定するのですが、（ウェルテッド製法の紳士靴などでは20本近く打ち込まれています）このモデルではホチキス的なビスで四箇所仮固定されているだけですのではがれてしまいます。

これもこのモデルの構造的な問題なのですが、一般的な靴は中敷を剥がすとヒールブロックを固定している釘の頭が見えます。中底面から釘を打ってヒールブロックを固定し、中敷を貼って完成ですが、このモデルは中敷はあるのですが中敷が本体の底縫いと一緒に縫われています。なので中敷で釘を隠すことができない為ヒールブロックを釘で固定していないのだと思います。

では諸々問題のある設計がされているこの靴をどのようにソール交換するかですが、縫わなければならないところはしっかりと底縫いし、釘で固定しなければならないところは固定し交換していきます。まず底縫いについてですがステッチダウン製法とマッケイ製法を併用します。オリジナル同様に本体とミッドソールをステッチダウン製法で底縫いし固定、その土台に革底を取り付けます。

靴の周囲の縫い目はすでにステッチダウン製法で縫われてしまっているので、二層目の革底は靴内部と貫通して縫製するマッケイ製法で固定します。＊ラバーソールやスポンジソールを取り付ける場合についてはマッケイ製法の必要はないので行いません。

内部を縫製する場合、この靴は中敷が取り外せないので縫製する際に中敷もまとめて縫製されます。（既製品でもこのように中敷も縫製されている靴もあれば、縫製後に中底面の縫い目を中敷で隠している靴もありますので一般的な処置となります）

ヒール部分には中底面から釘を打ち込んで固定します。この状態では釘の頭と底縫いの縫い目が元の中敷面に出ているので、追加でかかと周辺に半中敷を貼り付けて完成となります（カンペールのロゴがプリントされている中敷は隠れます）。オリジナルとは異なり本体と革底を固定している底縫いが別々なので、革底の縫い目が擦り切れてもこれで本体が分解することはありません。

なお革底の底縫いもハーフソールを取り付け保護しているので擦り切れることもなく、ハーフソールが摩耗した段階で部分補修を行えば底縫いも擦り切れず革底も摩耗しないので、基本的に今後はオールソールすることなく履き続けることができます。