スエードは漉かないほうが・・
モカシンといっても拝みモカシン、落としモカシンなど製法が数種類ありますが、今回はクラークスのワラビーで用いられている被せモカシン(ヘビモカ)と言われる製法の靴。その縫い目の部分で裂けています。
裂けている位置は負荷のかかる屈曲部分でもないし、構造的に指先(爪)で擦れて裂けるような位置でもありません。
まずは状態を確認する為に分解。裂けているのは一部ですが、被せモカシンなので甲のパーツを捲らないと補修できないので片側の縫製を解いていきます。
こんな感じで甲のパーツで本体側を挟み込み貫通して縫製してあります。
片側を解放します。
紐穴付近の正常な状態の縫い穴。
こちらが裂けた箇所、縫い穴が縦に裂けています。
裂けていない周辺の穴も裂け始めている感じです。被せモカシンは甲のパーツで本体側の革を挟み込む方法なので、重なり合う部分は革が三重になります。
なので分厚くならないように挟み込まれる本体側の縫い穴周辺は(端から7.0mm幅くらい)革が薄く漉いてありました。
そもそもなんですが、スエードは漉いてしまうと強度がかなり低下してしまいます。ただ世界中で販売され続けているクラークスのワラビーなので、これでも強度的には問題の無い仕様なのだと思います。
革は天然素材なので革質は均一ではありません。場所により革の繊維が緩い(網状組織や床面など)部位もあるので、たまたま今回の靴は縫い穴の位置がそのような箇所にきてしまったのかもしれません。
今回のモデルのように裏革が無い一枚革仕立ての場合は(補強材もない)、強度はその革のポテンシャル次第になってしまいます。
左右の靴で片側だけやけに皺が入る、ってことありませんか?
もちろん歩行の癖もあるのでそれに起因する場合もありますが、革の質が左右で極端に異なっている場合にも生じます。
原因はやはり繊維が緩かったり革の伸び方向に合わせてパーツを裁断できていない場合などにそういったことが起きやすいです。しかしそれを購入の段階で見分けることはできないのですが・・。
縫い穴を再建
裂けた穴部分に裏から革を宛てて補強します。貼り合わせる革は穴が開く部分は厚みを残し、端の部分は段差が出ないように革を漉いています。
革を厚く残せば強度は高くなりますが、甲のパーツで挟み込んだ時にそこだけぼてっとなってしまうので、見栄えと強度のバランスを考慮します。
ただ元々スエードを薄く漉いた程度の強度で維持できていたので(通常の場合)そこまで強度(厚み)は必要ではないのだろうと。
元の縫い穴の位置に穴を貫通させます。位置が狂うと被せる側の穴と合わなくなるのでズレないように一目一目。
手縫いの際は縫い針を三層に開いた穴に貫通させていくので、穴が空いている角度を見つけられないと穴の中で突き当たってしまい縫い針が思うように通ってくれません。
内側と外側では距離が違うので穴の角度はまっすぐではなく斜めに角度がついています。
被せモカシン復活
補強した部分がボコッとならないか心配でしたが、ほぼ元通りの状態に仕上がりました。
今回の案件は違いますが、裂け補修案件の多くは定期的な保湿が行われていない事により、革の柔軟性が失われた結果、裂けるというパターンが多いです。
靴であれば屈曲部分、鞄であれば可動部分(付け根や持ち手)や底角だけでいいので、定期的に保湿することで、革製品の寿命を伸ばすことができますので行ってみて頂ければと思います。
オススメの保湿クリーム
*ユニバーサルレザーローションはスムースレザー用なので、スエード(起毛革)にはスエード用をお使いください。